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透明人間のjyoのレビュー・感想・評価

透明人間(2019年製作の映画)
4.5
ユニバーサルは、2017年ごろにかつて自社が創作したモンスターたちを復活させる「ダーク・ユニバース」なるプロジェクトを計画していた。一作目として公開された『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』が興行的に失敗し、企画は頓挫した。

再起をかけて制作されたのが本作だそうだ。大型予算を投入された「ダーク・ユニバース」とは違い、予算は少なめ、大スターを起用しないなどスケールはかなり小さくなった。ところが、ふたを開けてみると大ヒットを記録し、批評家からも絶賛されたようだ。

この『透明人間』は、1933年のクロード・レインズ版同様に透明人間になった男が悪事を働く。ところが、本作がこれまでとは決定的に違うのは、主人公である女性シーの視点から描かれているという点だ。シーは、光学研究の第一人者の夫を持ち、自らもフランスで働いた経験があるなど裕福な生活を送っている。

しかし、夫のエイドリアンから日々家庭内暴力を受けており、家からの脱出に成功し、隠れながら生活を送っている。やがて、エイドリアンの訃報を聞き、彼女の精神は安定し、就職活動も始める。だが、トラウマから次第に死んだはずの彼が近くにいるのではないのかという恐怖を覚えるようになる。

というプロットが新鮮で、おかしいのはシーの方ではないのかと観客も思い始める。

主人公の狂気を描いたスリラーは、古くはオットー・プレミンジャーの『バニー・レークは行方不明』やロマン・ポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』(どちらも子供を扱っている部分が興味深い)等があり、『ターミネーター2』もそれに近い部分は少なからずもある。

その構成のおかげで、リアリズムが発生し、現実とはかけ離れすぎているという荒唐無稽さが本作ではあまり感じられない。誰の肩を持てば良いのかわからない点から、特殊なモンスター映画としての意外性があると感じるのである。

『ブレードランナー2049』にも似たサイバーパンク調のBGMもまた不気味さを体現させている。

新しい映画の形を観たような気もした。

ただ一つ残念なのは、ドルビーシネマ、IMAX対応作品であるのにも関わらず、日本ではどこも上映されていないというところだ。
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