けーはち

劇場版 ソードアート・オンライン オーディナル・スケールのけーはちのレビュー・感想・評価

4.6
VR(仮想現実)ゲームを題材にしたラノベ(ライトノベル)原作アニメの映画化。脳に干渉することで五感をフルに使ったVR世界の没入(フルダイブ)が実用化した近未来、オンラインゲーム内での死が現実に……VRの危険性が指摘され、AR(拡張現実)にトレンドが移った後の世界を劇場版で描く。

★最高の御褒美映画

伊藤智彦(細田守作品の助監督)を監督に迎え『君の名は。』を想起させるリアルな東京の街並みにデータやテクスチャの塊が重なるARイメージは、近未来SF世界の日本風アニメ表現として単体で面白い。

しかし、やはり原作・TVシリーズのファンでこそ味わえる御褒美映画の集大成であると言っておく。キャラや背景設定は本作では既知のものとして詳細は語られず、ストーリーの良さは蓄積あってこそ底上げされるので、私の評はファン用の御祝儀つき点数だと思っていただきたい。

★AR世界の東京を右往左往

ARはざっくり言うと、ウェアラブル機器を使ってユーザーの現実の知覚にデータを重ねる技術。それを用い、ミニゲームや広告を経由し、ユーザーに小銭稼ぎさせるところから話を始める。新作映画向きのキャッチーで分かりやすい導入。

そして本格的なAR-MMORPG「オーディナル・スケール」が登場するのだが、実在の地形やオブジェクトにデータやテクスチャが上書きされ、プレイヤーの知覚として世界がファンタジー世界みたいに塗り替えられるのが衝撃的だし、モンスターが跋扈する東京を探索、縦横無尽に走り回るキリトたちを追う、東京の御当地映画としても端的に面白い。

ちなみに実在するAR機器は視覚や聴覚を使うが、SAO世界のデバイスは脳に直接作用し視覚や聴覚ばかりか記憶情報までを書き換えるので、危険極まるが野放し(まあラノベなので)。案の定みんなヤバいことになるのが本編のあらまし。

★ネット弁慶、現実の旅

主人公キリトは超絶ゲーム廃人、ネット弁慶。VR世界で、これまで向かうところ敵なし。数々の死闘を乗り越え成長した彼だが、現実+データの融合したARの流行には後ろ向き(VRとは違って現実の生身でプレイするため、「ARはラグがある」とか言い出す)という点がまず面白い。またゲームで出逢った相思相愛の恋人アスナには親に会うよう迫られるが中々進展しない(リアルの身分差ゆえ)。

しかし、ひとたび彼女に危機が迫れば底力発揮。普通の運動不足のオタクならフィジカルの懸念が否めないところだが、少し素振りすれば即座に解決(ラノベ主人公なので)。それを呼び起こすアスナのヒロインパワーもロマンティック(古典的だが)。

VR大好きな彼が考え方を変えARを受け入れる過程は、ある程度、リアル世界での在り方を真剣に考え、受け入れて生きていくことの象徴的な表現だが、その上で最終的に彼が(仲間との絆含め)最大のパフォーマンスを発揮できる、やはりVR世界最高──そういう選択を認める帰結。それがSAOの物語を通じたテーマに他ならない。

★声優陣、音楽について

何と言ってもSAOはラノベ原作アニメでは覇権。何物語あたりに次いで別格(あっちは観ていない)、やはり若手の中でも豪華で好きな声優ばかりだ。キリト役の松岡禎丞は安定しているし、戸松遥、竹達彩奈、日高里菜らは大変可愛らしく、沢城みゆきも独特の存在感を放っている。

本業でない鹿賀丈史(大物ゲスト枠)はちょっと聞き取りづらかったが及第点で、神田沙也加は歌も演技もなかなか良い。

音楽はKalafinaの梶浦由記。シンフォニックで荘厳な雰囲気がファンタジー世界に色を添えており、こちらも素晴らしく堪能できた。