牧史郎

オールド・ジョイの牧史郎のレビュー・感想・評価

オールド・ジョイ(2006年製作の映画)
4.5
素晴らしかった……

言葉の溢れる法内の世界から法外の世界への移行の見せ方は分かりやすいのだけど、その上で「街には木があり、森にはゴミがある。だからどっちも同じだ」みたいなことを言わせて、観客の”読み”みたいなものを上手にかわしてみせる。痺れる。

犬という「街」側の動物の扱いも見事。あのワンちゃんは主人公にとって「街・言葉・家」側の存在なんだけど、「森・非言語・旧友」側へ超越する力も持っている。動物だから。

二人は違う世界の住民になりつつあるのだけど、それを言葉で埋めようとはしすぎない。ただ、温泉は湧いてくるように、川の水は流れるように、ナメクジはゆっくりと這うように、時間は前に向かって進んでいく。

「行って帰ってきて成長する」物語は終わって、アメリカンニューシネマのような「行って帰ってこない」物語が流行った。この物語の背景にある21世紀のアメリカの戦争においては「行って帰ってはくるけど何も得ない」物語ということだろうか。

でもいい時間は流れている。うーん。俳句みたいな映画だな…。
牧史郎

牧史郎