黒田隆憲

エル ELLEの黒田隆憲のネタバレレビュー・内容・結末

エル ELLE(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

めちゃくちゃ不思議な映画だった。観終わった直後は「あんまりバーホーヴェンらしくないかな?」と思ったのだけど、思い返せば思い返すほど、そこかしこにバーホーヴェン「イズム」が散りばめられている。道徳や倫理に囚われず、自由で超然とした生き方を貫く主人公ミッシェルへの憧れみたいな感情が、私の中で次第に増幅してきているのだ。

原作は『ベティブルー』のフィリップ・ディジャンによる小説『Oh...』。フランスのゲーム会社のCEOを務めるミッシェルが、自宅で何者かに強姦される。その時の記憶が時折フラッシュバックするも、普段は何事もなかったかのように(護衛のためのツールを揃えつつ)振る舞っている。会社では強権的で部下に憎まれ、母親は整形を繰り返しながら自分よりも不釣り合いなほど若い男に入れ込んでおり、元ドラッグディーラーの息子はアバズレ女と結婚し、明らかに他の男の子供を彼女が産んでも、その現実を見て見ぬふりしてる。そればかりか、父親は30年前に大量殺人を犯し終身刑を食らっており、当時10歳だった彼女も未だ世間から白い目で見られているという……。

普通なら自分の境遇を呪い続けるハードモード人生になりそうなものだけど、ミシェルは常に毅然としており、唯一の親友でビジネスパートナーでもあるアンナの旦那を寝取ったり、隣に引っ越してきた敬虔なクリスチャン夫婦の夫をたぶらかしたりとやりたい放題(笑)。普通なら「なにこのクソ女!」となりそうなものだけど、ミシェル演じるイザベル・ユペールがとにかく魅力的で「いいぞもっとやれ」と応援している自分がいました。
黒田隆憲

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