YokoGoto

マンチェスター・バイ・ザ・シーのYokoGotoのレビュー・感想・評価

3.8
ー乗り越えられないんじゃない、乗り越えないのだー

人には、頑張っても乗り越えられない哀しみというものがあると思う。
人間の哀しみをやわらげる『忘れる』という記憶の機能は、時に私たちを救ってくれるが、それでもなお、人の心の暗闇から開放してくれない、苦しみもある。

それは恐らく、自分自身との闘いであり、決して誰かに救ってもらえるものでもない。むしろ、抜けられない暗闇は『乗り越えられない』というよりも、あえて『乗り越えない』と言っても良いのだろう。

さらに、人間の苦しみへの闘いには、その人それぞれの人間性がでる。

幸せへの向き合い方には、さほど違いは無いが、苦しみや哀しみへの向き合い方は、その人のパーソナリティーがそのまま出るのであろう。

まさにそれが、『自我』というものだ。

マンチェスター・バイ・ザ・シーは、まさに、ある男性の哀しみへの葛藤と再生への物語。ケイシー・アフレックが最優秀男優賞でオスカーを受賞した作品である。

これは、全編通して137分感、ひたすらケイシー・アフレック演じる主人公が向き合っている哀しみと対峙する映画だ。

彼に何があったのかは、最初は分からない。
回想シーンと現在のシーンが交互に編集されているため、現在の主人公を追いながら、時々挟まる回想シーンをつなぎあわせながら、主人公の心境を察しながら観ていく。

映画全体は淡々としているので、盛り上がりにかけるように見えるが、一つひとつのシーンで対峙する主人公の哀しみを想像していくと、誰もが共感できる話であろう。そのあたりは脚本の素晴らしさでもある。

シナリオもわりと平坦に見えるのだが、私は個人的に、エッジがきいていて、とても良いと思った。特に、ミシェル・ウィリアムズとの数カットが、あまりにも残酷で身震いするほどだった。

また、ケイシー・アフレックの演技面は、すべて素晴らしいと思ったが、特に良いと思ったのは、ほとんど『泣かない』ことだ。
涙無しに哀しみを表現する佇まいが、逆に涙を誘う。その姿は、実に色っぽかった。

(ケイシー・アフレックは、これから良い役のオファーが殺到するんだろうな)

もう一つ、この映画で心地よかった所は、ユーモアだ。
哀しみをたたえながらも、所々にはさまるユーモアは、映画全体を暗くさせない。その散りばめたユーモアが、主人公の再生への希望を、かすかに感じさせてくれる。
そんなあたりは、作品としての優しい手触りを感じた部分である。

普段、強く優しく几帳面な男性ほど、自分のふがいなさへの憤りを許せないものだ。結果、深い悲しみを乗り越えられない人生を歩んでしまうのも、十分理解できる。
そのあたりは、男性よりも女性の方が、図太く割りきって生きていける生き物かも知れない。

だからこそ、女性の両腕は、我が子と男性を抱きしめるためにあると思う。

抱きしめられるよりも、より多く、より深く抱きしめられる女性でありたいものである。
YokoGoto

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