うめ

マンチェスター・バイ・ザ・シーのうめのレビュー・感想・評価

4.2
今、ここにいる俺はいないのと一緒だ。
息はしていても、心にはもう血は通ってやいやしない。
あの日、死んじまったんだから。
本当にこの命を捨てられたら、どんなに楽だろう?
でも、ダメだ。
そんな楽な道は選んじゃいけない。
笑う事も
愛する事も
楽しむ事も
全てを捨てて、独りで苦しむ事が俺に残された只一つの道なんだ。
死が訪れるその時まで。

ずっと、そう思ってきたのに…
いいのか?
こんな俺でも
生きていいのか?
もしかして…



アカデミー主演男優賞のケイシー・アフレック。
はっきり言って、「そこまでいいかな?」なんて途中までは思ってましたが…
パッケージにもなっているシーン。
ここからは、納得の素晴らしい演技でした。
言葉にならないって、こんなにも辛い。
伝えたくても
叫びたくても
心に空いた穴が呑み込んでしまう。

対照的に女性らしく率直に自分の思いを語るミシェル・ウィリアムズ。
彼女の言葉も、自分の心の傷を抉り出して搾り出されたものだ。
まるで溢れ出る血のように流れる涙。
私も涙が止まらなかった。

そして、「スリービルボード」にも出ていたルーカス・ヘッジズ。
さり気ない彼の演技だけど、非常に繊細さがある。
心の動きの表現が丁寧ですね。
若いのに…やるな。


自分の弱さを認める。
これも、また一つの勇気の形だ。
壊れたものは元には戻らない。
でも、ほんの少しずつでもまた積み上げる事は出来る。
観る人の気持ちのように、どんよりと垂れ込める空。
心にずっしりと残るかのような、地面に積もった雪。
それでも、いつかは晴れて暖かな日差しがやってくる。
そんなじんわりとした優しさが残る傑作です。
うめ

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