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マンチェスター・バイ・ザ・シーのりのレビュー・感想・評価

3.7
映画全体に非哀臭が漂っている。張り詰めたような冬の寒さ、どこか寂寥感を漂わせる海が頻繁に映し出されている。淡々と物語が展開していき、対照的とも言えるが『gifted』と重なった。
視聴後は釈然としない気持ちになった。結局、男は罪の意識に苛まれ、心が壊れたままでいる。回復の兆しは見られるが、どうなるか不明だ。心が壊れた男は他者と深い関わりを持たないように殻にこもっている。もはや、外出する引きこもりだ。『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』の主人公は、物を解体することで悲しみという感情を排出し、負の感情で心が満たされることを防いでいた。意図的ではないだろうが、完全に心が壊れることを防げた。本作の主人公はそれと対照的に自分の世界に閉じこもり、他者に干渉せず、酒に溺れて現実逃避をしている。感情すら表出することができず、その心苦しさは想像に難くない。抑圧された感情は、形を変えて自己か他者へ一気に最大瞬間風速で向かう。私自身、他者への表出の経験があるので、感情の濁流の恐ろしさや自己暗示で堤防を築いても無意味だということはよくわかる。たぶん、次作があれば主人公は自殺か何かしてるのではないかな。
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