ヨウ

マンチェスター・バイ・ザ・シーのヨウのレビュー・感想・評価

4.7
便利屋としてひっそりと暮らす男の壮絶な煩悶と大きな訣別。悲劇的な過去に苛まれ、壊された心は修復されることがないが、それでも生きていく。底知れぬ悲哀に精神が抉られてしまった。大切な家族の死。逼迫した生活苦。残された甥の将来。背負い込まれた重荷がのし掛かり、何をしても満たされることがなく、人の温かみすら感じられなくなる。救いようのない状況を前にして男が下した決断を見届けて打ちひしがれる思いに駆られた。

こういう作風の映画って結局は主人公が何らかの形で救済されることが多いが、今作では憂鬱なムードが払拭されることがなく、リーチャンドラーという不幸な男のもとに滞ることなく闇が襲う。(ゴッドファーザーPART2と似通った要素が見られる…?)見方によったら完全なる鬱映画であるが、それだけに囚われない味わい深さを感じた。個人的にはめちゃくちゃ好きな部類だ。

悲壮感溢れるケイシーアフレックの演技力には十二分に唸らせてもらった。故郷での暮らしに限界を感じ、「辛すぎる。乗り越えられない。」と悲痛な叫びをあげるシーンが特に印象的。リーには新天地においてどうにか幸せになってほしいと願ってやまない。

暗澹込めたる空気の中、もがき苦しみながらも前に進もうとする者たちの思いが曝け出され、いつまでも記憶から消えることがない。海の見える美しい町・マンチェスターバイザシーを舞台とした、悲劇に見舞われた人々が紡ぎ上げてゆく、痛ましくも感慨深い大傑作。心に穴が空けられるかもしれないが誰もが一度は触れておくのが望ましいだろう。私は今作をぜひともオススメしたい。


再鑑賞2021年10月31日
ヨウ

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