すずり

マンチェスター・バイ・ザ・シーのすずりのレビュー・感想・評価

4.4
【受賞】
第89回アカデミー賞-脚本賞、主演男優賞


【概略】
ボストン郊外でアパートの便利屋として生計を立てていたリーは、突然届いた兄の訃報を契機に地元であるマンチェスターへと帰る。
そこで甥であるパトリックと再開し、しばしの間彼の面倒を見ることになるリー。
雪の降り積もる冬のマンチェスターで、リーはパトリックとの生活を通じ、自身の過去と向き合っていくこととなる...

・・・

【講評】
アカデミー賞脚本賞を受賞している本作ですが、驚きのある怒涛の展開などといったものは全くなく、ただ1人の男とその甥の苦悩や心の揺れ動きに寄り添った物語が静かに紡がれています。
ですが、次第にリーの過去が明らかになっていき、物語がその色を変えていく様を丁寧に描写しているあたり、その構成力・脚本力は非常に見事です。
このような作品が、正当に評価されるのは流石アカデミー賞といった所です。
しかし、ポリコレ意識の高まりを感じる号令が出てしまった今年から、本作のような名作がアカデミー賞を獲ることが難しくなってしまいました。
今後のアカデミー賞の動向に少し不安が残ってしまいますね。

また、主演のケイシー・アフレックや、パトリック役のルーカス・ヘッジズの名演がなければ、この繊細な物語はそもそも成立し得ません。
それぐらい、苦悩する彼等の役回りを演じる事は難しかったはずです。

やり場のない怒りと自己嫌悪に苛まれるリー。
父の死を受け止めきれない等身大のパトリック。
冷蔵庫のシーンなんかは圧巻でした。

個人的には彼等に深く感情移入ができ、言い様のない切迫感や不安感を感じることのできた本作ですが、主演級2人の名演による所が物凄く大きいです。

特に、ルーカスは『WAVES』でも非常に混み入った心情を持つ役回りを演じていましたが、そちらでも本当に素晴らしい演技でキャラクターに溶け込んでいました。
今後の活躍に一層期待が持てる若手です。


【総括】
過去の悲劇から逃れられない男と、父の死を受け止めきれない甥の2人の心の揺れ動きを観せてくれるヒューマンドラマ。
静かだが力強さも感じる名作。
すずり

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