MasaichiYaguchi

菊とギロチンのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

菊とギロチン(2016年製作の映画)
3.9
昭和30年頃まで実在した「女相撲興行」と大正末期に暗躍したアナーキスト結社「ギロチン社」を題材に、史実をもとに瀬々敬久監督がオリジナル企画で映画化した本作からは、関東大震災直後の絶望と閉塞感溢れる日本で、社会的弱者たち、被災者や在日、無産階級や家事育児担当としての女性が、真っ当な人間として自由と平等を求めて奮闘している様が群像劇として映し出される。
女相撲一座に加わっている彼女らは、夫の暴力をはじめとして家庭生活に耐えかねて出奔した者、在日をはじめとした差別、虐待を逃れてきた者、男社会の中で自らの才能で自立したい思う者と、様々な過去や事情を抱えながら強くありたいと願っている。
一方「ギロチン社」の面々は、詩人や哲学者、銀行員や商人等と経歴は色々だが、農民組織化の為に小作人社を作るも失敗し、テロリズムで閉塞感溢れる世の中を変えようと活動する。
つまり、女性力士も「ギロチン社」の若者たちも先の見えない自らの先行きを切り開こうと、世情不安定で益々不寛容になっていく社会に、無駄な抵抗と半ば知りながらも戦っていく。
タイトルの一部になっている花菊ともよ役で映画初主演を果たした木竜麻生さんが、初めは夫や時代にいいようにされていたヒロインが心身共に逞しくなっていく様を凛として演じていて印象的だ。
そして「ギロチン社」のリーダー・中濱鐵を、このところ出演映画が続く東出昌大さんが、その屈折した人物像を浮き彫りにする。
その他、同じく出演作が続く渋川清彦さん、寛一郎さん、嘉門洋子さん等の多数のキャストが上映時間189分に亘る群像劇をドラマチックに彩っていく。
この映画は関東大震災直後の大正末期を舞台にしているが、大震災や集中豪雨等の天災を被り、政治的にも経済的にも不安定で社会に閉塞感が漂い、ワーキングプア、パワハラやセクハラ、マタハラが社会問題になっている現代と地続きの作品だと思う。