まっつん

ウインド・リバーのまっつんのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
3.2
「モンタナの目撃者」を近々観に行きますので予習。テイラー・シェリダン脚本作は結構観てるんですが、これは初見。観るつもりで、何となく後回しにしているうちにこんなに時間が経ってしまいました。「その日の映画、その日のうちに」ですな。

全体的には楽しめました。良いとこはいっぱいあると思います。構造としては「ボーダーライン」に少し近いのかなって感じがしますね。外者が辺境ならではの世界を目の当たりにし、呆然としながら悪戦苦闘する。「ボーダーライン」では外者であるエミリー・ブラントの突き放され感が凄まじかったのに比べ、本作はそこまで蚊帳の外には置かれていない。加えて、非常に勧善懲悪的な内容になっているので、エンターテイメントとしてのバランスはこちらの方が良いのではないかしら。

やはり本作の見所はアクション演出でしょう。序盤のヤク中男の家での銃撃戦はリアルなムードがあったうえに、クライマックスでの至近距離銃撃戦が実にナイス。その前のメキシカン・スタンドオフから嫌な緊張感がジワジワと持続していく。このメキシカン・スタンドオフがまた見事なもので、私有地だ!連邦法違反だ!警察だ!FBIだ!警察権はこちらにある!と各々が各々の正当性を主張する中で、「僅かな食い違いで殺し合いに発展する」危うさが充満していくわけです。そして瞬間的に着火!至近距離銃撃戦!からの主人公コリーによる遠距離からの狙撃!ここの狙撃描写がまた良くて、「トレーラーハウスの中で撃たれた男がしっかり逆の壁際まで吹き飛ぶ」というウェルメイドな作り。全体的には地味な作風ながら、ここに限ってはかなり景気が良い感じがして好みでした。その後の「制裁シーン」もかなり素敵。「自分たちが如何に人を舐め腐っていたかを思い知らせる」という、溜飲下がりまくりのグレートな制裁でした。

がしかし、イライラした部分も結構ありまして。個人的には、主人公のコリーがやたらとベラベラ喋りまくってるのが腹立たしかったです。たいそう寡黙かつハードボイルドな面持ちで登場したのも束の間、そんな調子だから「なんだお前はっ!」と。自分も娘を亡くしてるからとは言え、同じように娘を失ったばっかりの父親に対して、知ったような口をダラダラダラダラと効きまくるわけですよ。ひと段落したと思いきや、また喋り出すもんだから「おい、この話はいつまで続くんだい?」と。僕はこの瞬間に膝から崩れ落ちるような絶望感を味わった….酷い目にあったばっかりの人に対して、こういうアドバイスを長々とする奴は確実に嫌われます。人によっては「ウルセェンダヨ!!!」てな感じで、殴り掛かられていてもおかしくないですよ。皆さんも気を付けましょうね。

全体的に渋くてリアルな映画なのに、こいつが喋りだすと「何か深淵なメッセージを伝えようとしている感」がビンビンに感じられて、大変冷めました。もったいない。

事件の顛末に関しても、肩透かしを食らった印象は拭えませんでした。たしかにあの犯行シーンは嫌な雰囲気がビリビリと伝わってくるものでしたが、とはいえ一応「社会人」である大人達があれだけ集まっていながら、突発的にあんな蛮行に手を染めるだろうか?というのは甚だ疑問。しかも、単にムラムラしたからレイプしてしまった。というだけで、それってネイティブ・アメリカンの人の保留地ならではの事件でも何でも無くね?っていう。そういう意味では「保留地におけるリアルでシビアな現状」には切り込んでるようで、切り込んでないよね。って言うふうに思いました。