しおまめ

ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜のしおまめのレビュー・感想・評価

3.4
士郎正宗原作。押井守監督によって劇場アニメ化し世界中に広まった「攻殻機動隊」をTVサイズに連続アニメシリーズ化した「STAND ALONE COMPLEX」を手掛けたのが、今作の神山健二監督。
正反対の作風の今作は公開初日から大分叩かれた理不尽な扱いを受けたと言わざる得ないものでしたが、自分は結構響く作品でした。



“夢”を題材にした作品として、辻褄が合わず混濁した装いが目立つ作品であることは確かで、観ている側が受け取りづらいのは致し方無いのですが、
記憶や気持ちを映像化させる“夢”を使って家族の繋がりを描くのは考察しがいがあり、“夢”という幻を通してキャラクターの本質を知るというのは面白い。
実は最初から最後までリアリティとは違うファンタジーな物語を突き通しており、
舞台となった季節がお盆の時期であることや、精霊馬やラストの理屈を無視した展開など御都合な展開は、主人公達周辺のキャラクターが桃太郎の鬼退治を彷彿とさせるようにお伽噺的。しかしその中に確かにあるロマンチックな飛躍した展開は甘く優しいもので、涙を誘う。
そこにノれないという意見もわかりますが。

特に終盤の夢の悲劇的結末を観たココネが、今度はココネ自身が主人公となって夢をやり直す構造になっている描写は、説明は無いですが明らかにココネはあの悲劇を繰り返さないという意思が垣間見えますし、
なによりココネの夢が悲劇で中途半端に終わっている原因というのを考えると、父モモタローがどんな心情であったかを想像できます。
“夢”という幻を通して見るキャラクターたちの気持ちが感じ取れると、この作品の見方がだいぶ変わると思います。



ただやっぱり整合性を無視しすぎた夢の描写が災いとなった点は見過ごせなく、神山監督の師匠ともいう押井守監督は今作を「説明する気がさらさらない」と表現した通り、あまりにも終盤は台詞にも映像にも解釈させてくれない構造になってしまっている。
加えて、説明する必要があるところは無視しているのに対して、説明する必要がないところには説明台詞を入れたりしている。
ファミリー向けの装いもあるだろうけども、もう少し自然な会話劇を重視しても良かった。上映時間も内容に対して長い。
ファミリー層向けにも関わらず、ファミリー層には敷居が高い。
かといって映画知ってる人間が観ると作りが甘いことがわかるという、どっちつかずな結果になってしまったというのが、あの興業収入の表れなんだと思いました。


エンディングのデイドリームビリーバーは映画と歌詞の親和性が凄くてエンドロールは胸を締め付けられましたが、調理の仕方が間違っていた印象です。
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