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歯まんのPolaroidのレビュー・感想・評価

歯まん(2015年製作の映画)
3.0
Vagina dentata、すなわち有歯膣。この奇妙な概念は、世界各地の神話や民話に登場するらしいが、この映画でいう歯まんもその一つだろう。フロイトはこの歯の生えた膣という表象を、男性の去勢不安と関連するものとした。

らしいのだが、正直あまり関係なさそう。実際、この映画の主役ハルカは、都合三人の男性器と女性一人の指を自らの歯まんで嚙みちぎり、男たちを死に至らしめるのだが、性関係についての男性側の心理はほとんど描かれていない。カメラはあくまで、恋人と肉体的に結ばれると必然的に相手を殺してしまう、要はセックスしたいけどできない、厄介な体を持った少女の困惑と苦悩を映し続ける。

それだけでも気の毒なのに、サイコ男に強姦されたり、サイコ女に監禁陵辱されるなど散々である。しかし歯まんは武器ではないので身を守る役には立たず、屈辱と暴力に晒され続けることになる。この酷い扱いをかなりしっかり撮っているので、彼女が終始メソメソしていること、それだけ一層ユウイチだけが最後の希望の光であることが伝わってくる。

事情をすべて受け入れたユウイチとの最初で最後の交情は、ハルカにとってついに訪れた幸福でもあり、それを永遠に失う絶望でもある。血しぶきの中で泣き笑いする表情が壮絶で、とてもうまいと思った。

歯の綺麗な女優さんで、濡れ場や襲われるシーンで口を開けて、上の奥歯の方まで見える場面が多い。つまりスクリーンには歯のたくさん生えた穴が頻繁に映っているわけだが、これは意識的なショットなのだろうか。

彼女の絶頂前に抜けばいいじゃんとか、後ろの穴を開発してみてはどうかとか、まずはレントゲン撮ってみろよとか、センター試験は大丈夫なのかとか色々思ったが、たった一度きり心も体も結ばれるなら死をも厭わない恋人たちの覚悟の前では、野暮というものだろう。
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