ひでぞう

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめのひでぞうのレビュー・感想・評価

1.0
同じ原作のドン・シーゲル監督、クリント・イーストウッド主演『白い肌の異常な夜』(1971年)と比較する。まず、大きな違いは、黒人奴隷ハリーを削除したこと。『白い肌~』では、彼女とジョン・マクバニー伍長(イーストウッド)との会話のなかに、それが表されていた。しかし、この映画では黒人奴隷が削られために、南北戦争の意味が全く描かれない(時代背景がわからないということは、この女学校の置かれた状況が理解されない)。そして、この映画では、校長のマーサ・ファーンズワースの性的な過去が削除される。『白い肌~』では、兄への恋情と、近親相姦が示唆されていたが、それが全く描かれないのである。そのために、マーサの抑圧された「性」とその欲望が説得的ではない。『白い肌~』では、兄の服を着せることやラブ・レターで、その意味もよくわかるし、マクバニーに兄を求めようとする「欲望のめざめ」も明瞭である。マーサが、兄と性をマクバニーに意識するから、身体が接近し、眼をあわせるだけでも、画面からその緊張とエロスがよく伝わっていた。
 この映画は、確かに、きりとられた風景や女性たちの衣装に、絵画的な美しさを感じることができるが、しかし、それだけであろう。コッポラは、女性的な視点で描くことが強調されるが、ここでの女性的な視点とは何だろうか。さきの人種差別と近親相姦という二つの点を描かなかった(削除した)というところに、コッポラの人間理解の浅薄さをみる。『ロスト・イン・トランスレーション』が、私にとって、とても大事な映画であっただけに、残念である。
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