レインウォッチャー

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.5
南北戦争時代のアメリカ南部、森の小さな女学院に、ひとりの負傷兵が運び込まれる。斯くして秘密の園の均衡はぐらつき、崩れていく…

まあ案の定、という流れではありつつ、密室空間のパワーバランス変化が味わえる掌サイズの佳作サスペンス。
『欲望のめざめ』なんてサブタイほど派手なことが起こるわけでもなく、スターキャストぶりからするとちょっと拍子抜けするかもしれないけれど、こういう時間でこそ光るものもあろう。N・キッドマン、K・ダンスト、E・ファニング、それぞれがそれぞれらしいキャラクターで裏切らない。

少女から母といえる世代まで、いわば女性の半生をそれぞれ象徴するような佇まいの7人が暮らす、貞淑と戒律に鎖された女学院はミニチュアの『ピクニックatハンギングロック』的世界(※1)。
外部との繋がりがある様子も少なく、家族のように家事を分担し半自給自足的に暮らす彼女らだけれど、人が集まれば当然そこには嫉妬もプライドも育ち得る。土のすぐ下で、ちょっとしたきっかけから頭をもたげる時を待っているのだ。

女性群像といえばS・コッポラお嬢のお家芸といったところだけれど、今作ではいつもの洒落たサウンドトラックは封印。
静けさの中で、徐々に育っていく不穏を焦らず描いていく。それを表現しているのが大胆な光のコントロールだ。

日中の淡い(なんともインスタ映えしそうな)光と対照的に、時代背景にあわせて…というか、かこつけてなのか、日暮れ以降の室内がとにかく暗い。
しかし、その闇は常にうっすらと(テーマカラーでもある)スモークピンクの靄がかかっているようで、どこか粘って甘い。夜と共に濃くなる《女のにおい》を感じるようで、わたしは今作の見どころであると思った。何かが起こるぞ、と空間そのものが語っている。

二幕目から三幕目、負傷兵ジョン(C・ファレル)がとった《トリガー》となる行動は、まあ…正直「誰だってそーする、おれもそーする」(©虹村形兆)ってところで(刺されそう)、男性目線からすればラストまで含めてこの類の流れは現実世界でも死ぬほど見たよなって気がしてる。

ラストカット、彼女たちは「囚われている」ことがわかり易く表現されるわけだけれど、皮肉なのはジョンが北部兵であるということだ。
外界から自分たちを隔離し、再び閉じこもることを選んだ彼女たち。しかし、現代のわたしたちは間もなく北部側が勝利し、アメリカという国が次のフェーズへ進むことを知っている。

ただ、その進展が果たして必ずしも「良きもの」だったのかは、それこそ今となっては分からない。埋もれていくことを選んだ彼女たちこそが、幸福だったかもしれないのだ。

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※1:ちょっと惜しく思うのは、ここはどういった位置づけの施設で、彼女たちはこれまでどう暮らしてきたのか…という前段の情報・描写がいま一歩少なく思える点だ。開始早々にジョンが登場してしまうため、変化(ギャップ)の角度が緩く感じる。

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いま調べてて、今作がリメイク作品だったことを知る(オリジナルは『白い肌の異常な夜』。)観る…かは未定。