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空と風と星の詩人 尹東柱(ユンドンジュ)の生涯のjinheeのレビュー・感想・評価

4.5
尹東柱の詩が好きだ。
だからこの映画は絶対に観たいと思っていた。
ただ、この映画を観るにあたっては、自分の中で一定の覚悟を決めてたところがあった。戦争の残虐性を描く為に当時の日本が如何に狂い・残虐で・悪だったかをゴリゴリ描かれる可能性を感じていたからだ。
誤解の無いように言うと、個人的には作品の表現上必要な描写であれば、極悪非道の日本を描く事もアリだと考えている。ノンフィクションドキュメンタリーと銘打たなければ、事実以上にもっと酷く描くのも必要表現であればアリとさえ思っている。
が、「極悪非道」という存在はどうしても強いので、尹東柱の詩に見える彼の繊細な感性に対比されると、焦点がブレてしまうのではないかという心配があったからだ。
それが杞憂だった事が非常に嬉しい誤算だったし、真摯な作品作りに好感を持った。

東柱と夢奎の対称的な人物像が綺麗に描かれている。正反対の二人がお互いに相手の才能を大事にしている様が終始押し付けなく描かれていて、真っ直ぐな若者の情熱を描く事で、反戦をストレートに押し出す戦争映画よりも痛烈に視聴者に訴えるものがあった。
特に夢奎が調書にサインするシーンの訴えは涙無しに見られない。
彼らに限らずだが、支配国を貶める事が目的ではなく、母国と民族の尊厳を守りたいという真っ直ぐさには直視を躊躇う程の高潔さがある。

尹東柱を演じたカン・ハヌルは作中の詩の朗読部分でこんなに声の良い役者だったのか、と驚いた。
日本人役の俳優陣に誰一人日本人がいなかった事にも驚いた。

エンディングに尹東柱と宋夢奎の年表が流れるので、エンディング曲だけはもう少し音を絞って欲しかっただけが唯一のマイナス。
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