湯呑

ワンダーストラックの湯呑のレビュー・感想・評価

ワンダーストラック(2017年製作の映画)
4.2
クラシック映画の手法を完コピしながら、そこにアクチュアルなテーマを盛り込むトッド・ヘインズの新作は、1977年と1927年のNYを交互に、しかも全く異なる映像で描くという離れわざ。鮮やかな色彩とざらついた画質で撮られた77年パートは、出世作『ベルベット・ゴールドマイン』を思わせ、ヒッピーカルチャーの猥雑な空気感を見事に再現している。反対に、27年パートはサイレントモノクロ映画へのオマージュを盛り込み、大げさな効果音とオーバーアクトを多用しドラマチックに語る。こちらには、作中作として架空のサイレント映画まで挿入する凝りようだ。
特筆すべきは、両パートの主役たちを聾唖者に設定する事で、撮影手法と主題を密接に結びつけている事だろう。サイレント映画を擬した27年パートには音声による台詞が全く無いのだが、これは耳の聞こえない少女の側から世界が描かれているからでもある。聾唖者である少女に大人たちが何かをまくし立てても音声が消されている為に、その姿はサイレント映画の登場人物と全く変わるところが無い。結果、27年パートは字幕の省かれたサイレント映画となる。字幕の無いサイレント映画とは、音声の無いトーキー映画とほとんど同義だろう。トッド・ヘインズは、サイレント映画がトーキー映画へと切り替わる1927年を舞台にする事で、映画史における技術の進歩が社会的マイノリティを文化的マイノリティへと追いやった現実を暴き立てる。
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