JIZE

ワンダーストラックのJIZEのレビュー・感想・評価

ワンダーストラック(2017年製作の映画)
3.3
1977年に落雷の影響で耳が聞こえなくなった少年と1927年に生きる聾の少女がそれぞれの時代で大切なひとを探し単身でニューヨークへ向かう冒険を防いだジュブナイル系ヒューマン映画‼聴覚障害を基にサイレント映画(モノクロ)とトーキー映画(カラー)の両極面から時代の讚美を謳い上げる作品だった。観る前は原作者が「ヒューゴと不思議な発明」を生み出した軌跡からファンタジックな冒険要素が濃い成長物語かと予想していたが遥かにそれを上回る大人向け映画の模様。作品の構造でも時制を現在と過去の二つにわけ交互に語られていく体裁が設けられていた。これ自体は両軸の対比を示していく術で堅実な語り口だと思う。また作品のメインテーマが"大都会で憧れのひとに会う"ほぼロードムービーの要素で構築されている。20年代と70年代の異なる時代を呼応させた事で映画のありかたを同場所で交わらせたのはアイデアとして面白く終盤で真実が導きだされる仕組みもしっかり元が取れる商業性があった。本作は言語をメインに時代の感触を呼び起こさせる作品である。

→総評(50年をまたぐふたつのニューヨーク)。
総じて少年少女の冒険映画のわりに人間ドラマの緩急がやや薄く消化不良が募る作品だった。異なる時代性のアイコン化を美術や映像の数々で映し出していく下敷きが良かっただけにぶっちゃけあまりその中身が感動できない。ほぼ絵の魔術と沈黙の神秘性だけで成立してしまっている。なので子供の成長を描き出すのにやや冷めた視線で描かれ通されてるように感じてしまった。色彩の対比や過去と現在が思わぬ形で呼応していく結び付けはよいがそれ以上には作品内でグッとくる厚みがない。夢の世界に入り込むような視覚の演出で煙に巻いた感じが全編否めなかったのも事実である。デヴィッド・ボーイの楽曲が序盤で使用されててそこら辺の入口は題材と数奇な雰囲気とも併さっており音楽とシーンの見事な繋ぎこみであった。トッド・ベインズの作品自体があまり「キャロル」などしか観てないせいもあり監督のファンであればそれなりに本作は楽しめる作品かも。後半で街のジオラマが登場するシーンは子供たちに向けた希望を象徴していた。同時に本作は人間ひとりひとりの個性の尊重を包括的に謳う作品なのだろう。ニューヨークの街全体を讚美したような歴史の偉大性を感じ取れる美作であった。
JIZE

JIZE