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わたしは、ダニエル・ブレイクのakqnyのレビュー・感想・評価

5.0
ケンローチは徹底して社会的弱者の側に立ち、彼らをエンパワーメントする映画を撮るのだが、彼がすごいのはただお涙頂戴の劇ではなく、物語もさながらそのリアリティにあるのだと思う。

舞台のニューカッスルは元々は造船と工業の街なのだが、サッチャリズムや新自由主義の煽りで、イギリス全体として工業から金融へと投下される資本がシフトしていくにつれ、いわゆる取り残された街になってしまった。
ロンドンなんかの都市部では移民や有色人種の失業率が高い反面、比較的移民が少ない地方都市では昔からの労働者や、若い世代がハローワークやフードバンクに並ぶ光景は、揺り籠から墓場までと言われ、教科書で習った社会保障の手厚い国のそれとは思えないほど。



ローチはこの映画でそうしたサッチャリズムから続く新自由主義の暗部である、社会のセーフティネットから漏れた二人の主人公を通して、行政に訴えかけている。
それは単に網目を細かくして漏れないようにしろというメッセージではなく、社会システムをつくるのは人間で、それを運用し受益するのも人間であるならば、それはどこまで柔軟であれるのかを問うているのではないか。

「私は、ダニエル・ブレイク」という言葉は、自己責任や自助を全面に打ち出す昨今の世の中で大きく響く。

市民とは何か、相互扶助とは何か。
おそらくそれは、頑なに形だけのオンライン申請を求める行為ではなく、シングルマザーに本棚を作ってあげたり、パソコンに困る老人を助けてあげたりすることではないかと思う。
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