このレビューはネタバレを含みます
ジョエル・エドガートン主演ということで観てきました。
今作は米国が定期的によく作る「権利を勝ち取っていく系ノンフィクション映画」なのですが、それらより主人公のヒロイックな側面がほとんどない、ちょっと変わった作品でした。
異人種間結婚が認められていなかった1950年代のアメリカ・ヴァージニア州において、その法律を違憲とするきっかけを作ったラビング夫妻の話を題材にし、アメリカの恥ずべき歴史を白日の下に晒しています。
すごく変わっているのがジョエル・エドガートン演じるリチャードは、愛する妻と結婚するのが犯罪だという法律を「間違っている」としながらも、我慢して現状を受け入れていくところです。
レイシストの警官に滅茶苦茶な理屈で脅されたときも何も言い返さず怒りを飲み込むだけだし、最初の裁判所のシーンも弁護士に言われ甘んじて有罪を受け入れてしまうんです。
その後も裁判所に言われるがままワシントンDCに州外追放されて、弁護士にも能動的に助けを求めたわけではない。
権利を勝ち取る系ノンフィクション映画なのに、主人公らは権利を勝ち取るということにほとんど執着がない、むしろそういうことを嫌ってすらいるんです。
中盤に出てくる人権派弁護士がいくら頑張っていても、それが空回りだとすら思える。
悪法を変えようとしている弁護士たちとほとんど志を同じくしておらず、リチャードはただ生活を守り続けるだけなんです。
その熱量の無さはこの映画を地味にしカタルシス不足を感じる要因でもあるのですが、彼が社会の在り方と家族を切り離し幸せを享受しようと努める姿は、世の中がいかなる状況であろうと家族を守ろうとする静かな意志が感じられて、非常に重厚感のある存在感を醸し出しています。
住むところが変わろうと働く場所は変えず、ただ黙々と煉瓦を積み上げる仕事に励むリチャードの姿は、毎日を普通に生活するということがいかに大変で守るに値する事か語っているような気がしました。
演じているジョエル・エドガートンと妻のルース・ネッガのミニマルな演技が非常に良いですね。
ジョエル・エドガートンの戸惑いながらも現実を見据えている感じがすごく良かったし、ルース・ネッガが夫の愛情を一身に理解し支えながら、社会とも闘っている良妻賢母を好演していてハマっていました。
彼らとは対照的なサブキャラの演技も良かったですね。
特に人権派弁護士を演じた二人は社会のために尽力しているはずなのにどこか功名心みたいなものが垣間見える軽さがありましたねw 彼らがいることで夫婦の存在の重みが際立っていたのではないかと思います。
演出や脚本としてはもうちょっと具体的に描いて欲しかったところも多くて、例えば妻のミルドレッドが夫の母親のところで子供を産みたいと言い出したり、ワシントンDCは狭いからヴァージニアでのびのび子育てしたいと言い出すところは、ともすればわがままに見えかねないと思うんですよね。ワシントンで子育てしている人もたくさんいるだろうに。次男が事故にあったのもそれが丸々土地柄のせいだと決め付けるのもちょっと理解しづらいです。
妻がどうしてもヴァージニアで暮らしたい根拠としてやや説得力に欠けるところがあるので、あそこはその暮らしがどれだけ窮屈か、もう少しカリカチュアして描いても良かったんじゃないかと思います。
ラビング夫妻がどれだけお互いを愛しているかどうかも、もう少し描いても良かったかもしれません。妊娠を伝えるところで始まるのも良かったですが、回想形式でも良いので出会いのところから書いていたら親近感は増したかもしれませんね。
地味なのは否めないし抑えた演出が物足りないところも多いですが、静かな愛を感じられる役者陣の演技力が見所の小品でした。