あるてーきゅう至上主義者

お嬢さんのあるてーきゅう至上主義者のレビュー・感想・評価

お嬢さん(2016年製作の映画)
5.0
現時点における2017年のマイベスト洋画。今年は韓国映画の狂い咲き。コクソンが今年のベスト韓国映画だと思ったが、この映画が軽々と超えていった。

中身は韓国が日本の植民地であった頃。日本文化に憧れる韓国人の富豪のもとに、その「お嬢さん」を世話するために一人の女性が侍女として派遣される。しかし彼女はとある密命を帯びていた、というのが冒頭部分。しかしその後の話は転がり転がり、とんでもない方向へと向かっていく。そうした物語が、小栗虫太郎や江戸川乱歩的な耽美的な世界観の中で展開されていく。

この映画はあらすじを語ることに、実はあまり意味がないのではないか?と思う。官能サスペンスとしてストーリーを楽しむことはもちろんできる。しかし華麗な美術や衣裳デザインを堪能するだけでも充分楽しめるし、驚くほど緻密に計算されたカメラワーク(アーチ状の枝のトンネルを捉えたショットの美しさ!)だけでも、何度も見直す価値がある。

ただ、本作の根幹は「お嬢さん」と侍女の関係性の変容だろう。つまり、「閉ざされ行動を強制されていた空間」から「自分の力で行動を選べる自由な世界」へと脱出していく手助けを、この侍女がある種の水先案内人となってお嬢さんを導いていく物語となっている。本作は官能サスペンスではあるが、同じ「官能」でも前半は強制されていたが、後半はお嬢さん自身の選択で選び取っていく。ややもするとお説教調のジェンダー映画になりかねないが、この映画は二人の女性が自分の生き方に目覚めていくまでの過程が、清々しく、感動的に、そしてなによりエロチックに語られていく。
だからこそ、草原を駆け抜けていく二人の表情が本当に美しい。

いまリアルタイムで映画館で観るべき大傑作だ。

…それにしても詐欺師の最期の一言、ほんとに最高(笑)