ベビーパウダー山崎

シエラネバダのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

シエラネバダ(2016年製作の映画)
3.5
死んだ父を偲ぶために集合した家族親戚がうじゃうじゃと狭い団地の一室で揉めたり泣いたり陰謀論を話し合ったりで三時間。同じ家族だとしても思想や哲学は当然違っていて、それぞれが抱える苦悩を理解することはもう難しくて、すでに人生そのものはほとんど交差しないのにそれでいて「しきたり」は一応機能していて、その格好だけのために集まってきた家族という名の他人が父の死そっちのけで右往左往している滑稽な姿にとうとう我慢できなくなり笑ってしまうラストが良かった。死人に構う時間より私たちには現在進行系の(山積みな問題と)生活がある。俺はこういった多くの人物が出てくる会話劇がなにより好物なので十分楽しんだ。三時間は長いが、呼ばれていないのにのこのことやって来てしまう叔父さんが現れてから(二時間超えてから)は急激に面白くなる。
クリスティ・プイウは『ラザレスク氏の最期』もそうだが、その人物の過去から今に繋げて、はっきりとしたバックボーン持たせてキャラクターを書き分けるから勉強になる。『荘園の貴族たち』と同じく元あるのはブニュエルだと思う。閉じた空間で腹は減りまくっているのに食しようとすると何かしら邪魔が入り最後まで食べられないブラックコメディ。手持ちで行動を追ってしまうキャメラ含めて「映画」としてのアプローチはかなり疑問。リアルな手法と長回しは相性悪いよ。中盤にある車内のくだりもあまりうまくいっていない、映画的センスはそこまでないと思う。