YokoGoto

ハクソー・リッジのYokoGotoのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
3.9
<あえて厳しいことを書きたくなる。非武装で国を守れる!という人ほど観て欲しい映画>

数多くの戦争映画が世に出されてきた。多くの名作を通し、戦争を体験していない我々は、作り物ではあるものの、その激しい惨状描写に心震わせ『二度と、戦争はしてはいけない』と、何度も何度も心に誓うのだ。

私も、ある程度の戦争映画を観てきたが、その中でベスト1位を選べと言われたら、現時点では『戦場のメリークリスマス』を選ぶ。
『地獄の黙示録』や『プラトーン』など、様々な名作はあるが、やはり日本人という立場で戦争を見た時に、どうしても大島渚監督の本作を選んでしまう。

戦争映画とは、その切り取り方に大きな差異が生じるのだ。
戦争を美化したような映画は論外だが、多くが戦争の苦悩が描かれるという意味では、どの映画もそれなりのメッセージを含み、それが胸に突き刺さる。

しかし、監督の考え方により、そのメッセージ性は大きく異る。
争いや闘いで血を流すことを賛美はしないものの、結果的に、ヒーローを讃えたり、戦勝に高揚する姿が映し出される事も少なくない。

闘いに勝つ国もあるならば、負ける国もあるのだ。
戦勝を称えれば称えるほど、敗戦国のその後の運命など、知ったこっちゃないということになる。侵略され、人権を奪われた敗戦国の、その後こそ胸打つ物語になるはずだが....

前置きが長くなってしまったが、何を言いたいかというと、つまりは、戦争映画というものは戦争の切り取り方により、見方も感じ方も大きく異なるという事だ。それを見誤ってしまうと、それこそ、昔の軍拡による侵略戦争の時代の思想に巻き戻されてしまいかねない。
それこそ、空恐ろしい空虚な世界である。

本作、ハクソー・リッジは、激しい沖縄戦を舞台にした、あるアメリカ兵の実話を元にしたお話である。
しかし、沖縄戦を舞台にしているということは、あまりにも日本のメディアに取り上げられなさすぎでは無いかと思う。

日本人の興味・関心が薄すぎる。

日頃から、沖縄の基地問題およびデモクラシーが取り上げられる中、この映画が炎上しなかったのは、メディアが沈黙したからであろう。
これは、強烈な違和感を感じざるを得ない。

この映画の中での沖縄戦は、それはもう激しいものがある。
日本映画では決して表現できないであろう、すさまじい戦闘シーンの描写の数々。アカデミー賞で編集賞を受賞しているが、納得のクオリティである。大画面でみていると、戦場のリアルな攻防に引き込まれるようだ。

絶対、映画館で観る映画である。

しかし、そんな私の感想とは反して、公開初日のお昼の回は空席が目立ち、ガラガラであった。邦画では、ここまでの戦争の記録を描けないのだから、ハクソー・リッジのようなハリウッド映画を観るしかないのに、なぜこんなにも、皆、無関心なのだろうか?

何度もいうが、数年前大ヒットした邦画のあの特攻映画とは、全く異なる産物だ。むしろ、あの映画は、私にとっては戦争賛美に見えてしまった。共感できなさすぎて、胸が震えるほどだった。

なのに、激しい沖縄戦のリアリティを表現したハクソー・リッジの話題にならなさといったら。正直、言葉では言い表せない無力感にさいなまれてしまう。(笑)

さてさて、

ここまで、本作の感想とは、あまり関係ないレビューをしてしまったが、この作品を語るには、どうしても前置きが必要だった。

戦争映画から、何を感じ取るかということは、観る側が戦争をどのようにとらえているかと関係しているから長々と書いたのだ。

本作は、武器を持つことを拒否し、衛生兵として負傷兵を救った伝説のアメリカ兵のお話である。
人を殺さず戦場にいくという荒唐無稽な状況下で、前代未聞の実績を残した兵士の姿は、それはそれは立派なものだった。

その信念とその行動力を、誰もが評価し賛美することだろう。
しかし個人的には、どうしても引っかかってしまった。

武器を持たずして、銃を撃つこともナイフを使うことも無かったが、果たして、それは誰も殺めなかった事とイコールなのだろうか?

非武装というのは、武装している中で仲間に守られてこそ、成り立つのではないのだろうか?どうしても、ここが引っかかってしまった。

平和な私達のこの世界の中で、誰からも攻めこまれず、誰をも攻めこまない。武器はもたない、持ち込ませないという思想はゆるぎのないものだ。

しかしその反面で、果たして、攻撃をしない(非武装)に徹するには、だれの手も汚さず成し遂げることが可能なのか。この部分こそ、私達が向き合わなければならない、安全保障問題なのかもしれない。

是非、映画を観て多くの人達と議論したいものである。

戦闘シーンの迫力には、本当に圧倒されました。
是非、映画館で御覧ください。
YokoGoto

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