ブタブタ

ハクソー・リッジのブタブタのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.2
沖縄戦を徹底的に隠した事と、いつものタレントの使った下らない宣伝に騙されたのか、はたまた単なるヒューマンドラマだと思ったのか途中退席する人が何人か見受けられました。

正直な感想としてはこういう映画を作れるアメリカ及びよその国は羨ましいと思いました。

監督は「お前らがキリストを殺したからこんなクソみたいな世界になったんだ!お前らユダ公はみんなナチスに皆殺しにされりゃよかったんだ!」でお馴染みのメル・ギブソンさん。

日本人である自分は主人公エドモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)に感情移入して見れるのか?
とかいちいち七面倒臭い事が頭に浮かぶのも先の戦争をドイツとは違って日本はちゃんと終わらせる事が出来なかったせいだと思います。

教育もそうですし、日本の敗戦と言う事をキッチリ総括出来なかった。
コレは東京裁判含め責任の所在や様々な事を有耶無耶にしてしまったせいだと思います。

「ナチス」は極悪な組織でナチ公はゾンビと同じくいくら殺そうが心は痛まないし、何処からもクレームは来ませんがこれが「大日本帝国」になると色々めんどくさい事を言ってくる人達がいて純粋に映画の中では悪役として描く事が出来ない。

ドイツの戦争映画では、たいてい主役はドイツ国防軍でありナチスは「組織内敵組織」みたいな描かれ方をしてますが、大日本帝国だって憲兵やら関東軍とか悪役に出来るモノがいっぱいありますけど、それらを純粋に悪役として描いた映画は殆ど無いと思います。
『アイアン・スカイ』みたいにナチスをバカ組織としてギャグにしたり、嘗ての大日本帝国も「今は存在しない悪の組織」として馬鹿にしたりギャグにしたり、悪役として映画で使える日がいつの日か来ればいいと思ってます。

ここ迄全く映画に関係ない話が続いてますが『ハクソーリッジ』凄かったです。
ハクソーリッジ=前田高地攻略戦は首里攻略から本土侵攻へ向けての重要な第一歩で、重火器・最新兵器群の米軍に対し日本軍は手榴弾や銃剣の肉弾攻撃に特攻自爆作戦と兵力の差は歴然でありながらそれでも何処からともなくわらわら湧き出して襲いかかってくる日本兵の恐怖と、壮絶な戦いと酸鼻を極める地獄絵図は言い方に語弊はありますが兎に角最高のゾンビ映画でした。

丸腰で戦場に行き、あれほど弾が飛び交う中で1人救出活動を行う「伝説の衛生兵デズモンド・ドス」とは大戦が起こると必ず現れる一種の「超人」の1人だと思います。
「白い死神」シモ・ヘイヘや「黒い悪魔」ハルトマン、日本では「死なない兵士」舩坂弘など。

「良心的兵役拒否」「信仰」「汝、殺すなかれ」いろんな言葉が出てきましたが、どれもドスの信念やその行動を補強する材料にはなっても完全に手放しで褒めたたえたり感動出来るかと言えばそうは思えなくて、あの戦争中にデズモンド・ドスと言う一種の超人・奇人が居た―と言う映画だと思いました。

キリスト教の信仰に従った「米兵を1人でも多く救いたいって、米兵に殺される日本兵はどうなの?」って意見もありますが「人を殺してはいけませー。殺していいのは化物と異教徒だけ」(平野耕太『ヘルシング』より)みたいな、異教徒どころかあの時代のアメリカ人からしたら日本人何て野蛮人以下の知能がそこそこ高い猿みたいな物だったろうし、成り行き上ドスが日本兵を助けようとする場面もありましたが基本日本人何て「人間の数に入ってない」からその辺りの矛盾は自分は感じませんでした。

日本軍・米軍とも一神教の国家、米兵=イエス・キリスト、日本兵=天皇と言うコレは宗教戦争映画でもあったなと思いました。

『パッション』『アポカリプト』とメル・ギブソン監督は「崇高さと残酷」が同居する映画をこれからも作り続けて欲しいです。
映画秘宝に『パッション』の続編を作るとか記事が出てましたが、キリストとユダ亡きあとのキリスト十一使徒が延々と拷問され続けるだけ(笑)の作品だとか(最後はキリストが復活するのでOK)是非見たいです。
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