kyuuuri

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーのkyuuuriのレビュー・感想・評価

5.0
「君に、生涯を賭して物語を語る意志はあるか。
何も見返りが得られなくても」

サリンジャーのお母さんが素晴らしかった。
「ジェリーは創作を学び、あなたは学費を払うのよ」
ときっぱり旦那に言う、お母さんかっけぇぇ。
それから、靴下も。

サリンジャーは、才能を信じたお母さんの存在と、一作目の作品を採用し、作家とは何かを教えてくれたウィット先生の存在なしでは生まれなかったのだと思う。

ウィット先生とサリンジャーとの会話の全てに目が離せなかった。
全てのアドバイスが心に響いた。
「大事なのは、それが単調に朗読されたとしても、皆を引き付けていられるどうかだ」
「ホールデンにそんなことするな、長編がふさわしい」
「彼について書け、ホールデンと親友になるんだ」
ウィット先生がいなかったら、長編のライ麦畑は存在しなかったのかと思うと、その存在は大きい。

戦争から帰ってきたサリンジャーが、物語を書けるようになるまでの過程も好き。
書いて破る、書いて破る、書いて破る、破ろうとした時にふと手が止まる。
そのシーンは躍動感があって好き。

ウィット先生の言葉を思い出して、戦争中にホールデンを執筆するシーンも。
「作家は、手に持っているのがペンでも銃でも創作を続けられる」
ペンもタイプライターも使わず、ホールデンの物語を自分に語り続ける。

「見事な作品を生む芸術家や詩人は、人として欠陥がある」
そうかもしれない。
ウィット先生を許せないサリンジャーに、「瞑想をしても許しは学べないのね」と言う奥さんの言葉が好き。

「1作目の採用ありがとう」はちょっと感激した。

それから、「出版したくないんだ」というサリンジャーに
「出版しなくていい。あなたに幸せになってほしいの
いつも言っているでしょ、出版が全てじゃない」はすごい。
書かせたい人たちばかりの世界で、サリンジャーにその言葉を言えるのは、すごい。

作家という繊細なアーティストのほんの一面を知れる映画。
なんていうか、すごく心にぐっとくる映画だった。

ps.村上春樹がどこかの本で、「学校新聞だと思って取材を受けたら、地方紙に載ってしまって人間不信に~」みたいなこと言っていたな、と思い出した。
あ~あ、これからすぐ図書館行ってサリンジャーを村上春樹訳で読みたい。
そしてそのあとにまた観たい。
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