ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーの作品情報・感想・評価

「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」に投稿された感想・評価

kamiori

kamioriの感想・評価

4.0

このレビューはネタバレを含みます

・映画としてというより、サリンジャーの伝記の映像作品として興味深かった。彼の半生を知ることで作品の見え方も変わってくる。「バナナフィッシュにうってつけの日」の唐突に思える結末も、第二次大戦を最前線で戦った事実を踏まえると重みが感じられてくる。
・ぼくらが小説を読み、その登場人物に自身を投影するのは普通のことだけど、もしも作家がその人物を自身をモデルとして描いていたら、たしかに読者の没入はとてもグロテスクなものに見えるかもしれない。特に「彼は私です」なんていう洗脳された男がじっさいに目の前に現れたらね。ある程度自分から距離を置いた題材を取り扱わないと、作家はとても仕事ができないのかも。
・それができないサリンジャーが、書くことは「祈り」だと気づき、出版を止め、自分のためにひたすらに書くという境地に入ったのは納得できる。
ただ、お金に困っていなかった、という前提は大きいと思うけどね。そこはフィッツジェラルドと違うところ。
・クレア役の人、めちゃめちゃ綺麗だ!と思ったら、『ボヘミアン・ラプソディ』でヒロイン演じてた子なのね。そして『シング・ストリート』のあの強烈なモデルも(笑)。なんだか一気にブレイクしそうな気配
 大学では文学部に籍を置いていたのに、恥ずかしながらサリンジャーは一度も読んでいなかった。「ライ麦畑でつかまえて」というタイトルが能天気な青春小説に違いないという先入観をもたらしたというのが、若かりし頃の当方の言い訳である。
 遅れ馳せながら鑑賞の前日、ジュンク堂で白水Uブックスの野崎孝さんの翻訳を買い求めたものの、最初のほうを読んだだけで上映時刻を迎えてしまった。それでもサリンジャーの、世の中に斜に構えたスタイルはなんとなく把握できた。
 逆に映画で小説の内容が少し紹介されていたが、ライ麦畑の端っこが崖になっていて、子供が次々に落ちそうになるのを捕まえてあげる仕事を永遠に続けるというイメージを聞いて、美しい映像と厳しい現実が浮かび、それがたいそう比喩的であり、そして芸術的であるところに、サリンジャーの不世出の才能を理解した。
 映画のサリンジャーはホールデン・コールフィールドほどエキセントリックではなく、友人と酒を飲みタバコを吸い女の子に気軽に声を掛ける、いかにも普通のアメリカの男の子であった。ただ文章を書くことだけに執着しすぎるきらいがあって、好きな女の子の誘いよりも小説を書く時間を優先してフラレてしまうほど、書くことが好きである。根っからの小説家なのだ。
 映画ではユダヤ人の血が半分混じっていることや、ノルマンディー上陸作戦の後にアウシュヴィッツを訪れたことなどがさり気なく述べられていて、注意深くセリフを聞いていないとわからないほどだが、戦争がサリンジャーの魂に深い傷を与えたのは間違いない。PTSDという言葉が生まれるにはベトナム戦争の惨禍を待たねばならなかったが、第二次大戦後にももちろんPTSDはあった。
 しかし精神科医は役に立たず、役に立ったのはヨガと瞑想で、それらの力を借りつつ、結局は書くことが癒やすことであった。若者の話を書くのは、若者がまだ汚れを知らない無垢だからとサリンジャーは言う。中原中也は「汚れつちまつた悲しみに」という詩を書いたが、意味は同じことだろう。

 学校の講師であり文芸誌の編集者であるバーネットや女性編集者ドロシー、その他たくさんの出版関係の人々との関わりと、家族関係のダイナミズムが詳細に描かれ、サリンジャーのことを知らない人にもすべて理解できるようになっている。作品として独立して纏まっており、保管の必要がない点は高く評価できる。
 俳優陣はいずれも好演だが、中でもバーネット役のケビン・スペイシーは素晴らしい演技で、サリンジャーがどういう人間であったかを浮き彫りにした。不採用に耐えること、何度も書くことという作家にとっての必須条件を伝えることで、サリンジャーに肚を決めさせる場面は素晴らしい。
 主人公を演じたニコラス・ホルトはリドリー・スコット製作総指揮の「ロスト・エモーション」で難しい役を上手に演技していたが、本作の演技もとても見事であった。青年らしい揺れ動く世界観と迷いの中で、真実を書きたい、ありきたりの物語は書きたくないという魂のこもったセリフを言う。書き上げた「ライ麦畑でつかまえて」を編集者に渡す場面では、作家が命を預ける場面に見えて非常に感動的であった。
 書くことが癒やしだが、出版することで社会との煩わしい関係性が生じる。身を削るようにして小説を書く作家にとって、書くことと生活することは相反であり、どこまでも悩ましいところである。出版がすべてだと言っていたドロシーが、最後に出版がすべてではないと堂々という場面には、主人公と一緒になって苦笑いしたが、この台詞によって辛かったサリンジャーの人生が救われたような気分になった。
ausnichts

ausnichtsの感想・評価

3.0
サリンジャー生誕100年の伝記映画です。

最後まで集中して見られるいい映画だと思います。

https://www.movieimpressions.com/entry/rebelintherye
わか

わかの感想・評価

3.7
恥ずかしながらサリンジャーの過去、全然知識の無いまま鑑賞。
あの有名作の裏にはこんなエピソードがあったのかと終始へえ〜と思いながら観てました。
戦場のシーンがフラッシュバックする度に胸が詰まった。トラウマにならない訳ないよなあ……
それでもそんな死ぬほど辛い思いをしてまで作品を生み出す精神力がやっぱり只者じゃないんだろうな…普通に考えたら到底無理です。

ライ麦畑で捕まえて、によって栄光を掴んだけどそれを掴んだ事によって失った物も大きかったね。
最後の女性編集者の言葉がすごく良かった、誰でも権利がある事なのにその権利さえも戦争や著名人になった事で果たせきれなかった事を叶えて欲しいと願う彼女の心に感動。
マユコ

マユコの感想・評価

4.2

このレビューはネタバレを含みます

とても綺麗にまとまってた。
所々の音楽が好きだった。
サリンジャーがもがき苦しんで、家族さえ信じられなくなるのが見てて辛かったな。
映画で描かれなかったその後に幸せを感じていてほしい。
「ライ麦畑でつかまえて」読もう。
fumica

fumicaの感想・評価

4.0
ニコラス・ホルトが良かった。
ケヴィン・スペイシーは、さすが。

コロンビア大学の創作科の授業がおもしろく、
勉強になる。
ザニューヨーカーの編集者の意見も興味深かった(説明しすぎってとこ)。

チャップリンの名前が出てきてびっくり!

邦題のサブタイトルや
ポスターのキャッチコピーに激しく違和感。
ひとりぼっちという言葉のチョイスや
孤独でかわいそうというニュアンスは
外側の人が勝手に決めつけたことに思える。

あんな思いをして出版した
『ライ麦畑でつかまえて』をちゃんと読まねば!
エノ

エノの感想・評価

4.5
サリンジャーの小説が大好きで、特にFranny and Zooeyは今まで人生で読んだ本の中で1番好きな小説です。私はウィット先生の言う所の、サリンジャーの “声” に今まで何度も何度も救われてきました。そういうわけで赤いハンチング帽を被ったひとりとして、この映画はちょっとばかりひいき目に見てしまいます。だけどサリンジャーのファンというのを抜きにして観ても良くまとまった綺麗な映画だと思います。

主演のニコラスホルトはMAD MAXとwarm bodies のゾンビくんのイメージが強くて、観る前は(大丈夫かな〜、what a lovely day 感が出ちゃわないかな〜)と妙な心配をしていましたが、役に合っていてすごく良かったです。内に感情を抱えた演技も、怒りに言葉をぶちまける演技もとても良かった。そして何と言ってもハンサム。
音楽も文壇の華やかさとサリンジャーというひとの繊細さを表していてとても素敵でした。


映画を観て思ったのは、ホールデンだけではなくてシーモアもサリンジャー自身だったんだな、ということです。どう考えたってホールデンとシーモアはイコールで繋がらないので気づいていませんでしたが、ホールデンとサリンジャー、シーモアとサリンジャーはイコールなんですね。グラース家の物語の中のシーモアの声はサリンジャーの声だからこそ、フラニーやズーイと同じように読者もその声に救われるのかもしれません。
シーモアはきっとライ麦畑のキャッチャーのような人で、ホールデンは(本当は)捕まえられたかった人なのかなぁと思いました。


天国のサリンジャー氏がこの映画を観たらどんな皮肉を言うのかしら…とちょっと怖い気はしなくもないですが、2時間弱の駆け足であれ繊細で優しい、本物の物書きの半生を映画という素敵な形で追体験できてよかったです。
何よりThe catcher in the rye の最も素敵な一節が出てくるのがたまらんですね。
序盤あたり、オリーブ入りのマティーニがちらっと映るところにも製作陣の愛が感じられました。が、それはちょっと考えすぎかしら。🍸
KoS

KoSの感想・評価

3.5
キャッチャー・イン・ザ・ライを初めて読んだ時、(他の多くの10代と同じように)なんでこんなに自分にあてはまるんだ!サリンジャーこそ我々の代弁者だ!と強く感じたことを思い出す。
社会人になってからはやっぱり読み返そうと思わなくなって。
知らぬ間にサリンジャー的価値観から卒業した、と思うようにしている。
YUZO

YUZOの感想・評価

4.4
これまでサリンジャーは好きな作家でありながらも、名作をいくつか発表して人気絶頂の中、突然出版を拒否して伝説と化した作家という程度の情報しか持っていなかった。

作家として成功するまでに、劇作家ユージン・オニールの娘ウーナとの恋、戦争という2つの苦悩を経験していることが分かった。戦地での惨禍、友の死を目の当たりにした影響は大きく、終戦後もPTSDとしてサリンジャーを苦しめることになるが、そのPTSDをも乗り越えて生み出された「ライ麦畑でつかまえて」。世界中の若者達を虜にした青春小説のバイブルとされたあの作品から受ける印象と小説が生み出されるまでの背景の重さがあまりに大き過ぎて、あれだけの大きな苦悩を経験しながらも何故あのような文体を書けるのかに驚かされた。

例えばピカソの「ゲルニカ」。戦争を経験する前後で作風が全く変わり、色彩すら失われて戦争の悲惨さ、反戦のメッセージが伝わってくる。

完成度の高いドキュメンタリー映画。映画全編を通じて映像が綺麗で、作品の世界観に浸れる。この映画を観ることで、また作品を違った観点で読むことができるし、いくつか謎も解くことができた。

劇場の平均年齢が高く、ほとんどが50-60代以上の方ばかりだったのが意外。
Shirota

Shirotaの感想・評価

3.5
2019年1月1日に生誕100周年を迎える小説家J・D・サリンジャーの半生を描いた伝記ドラマ。
世界的ベストセラー「ライ麦畑でつかまえて」が世に出るまでが丁寧に描かれている。太平洋戦争中にも書き続け生き抜いた彼が、戦後PTSDにより書くことができなくなったが、少しずつまた書き始めて仕上がったのが「ライ麦畑〜」だった…。


熱狂的なファンに付け回されたり、インタビューを受けない彼が学校新聞と聞いて受けたら、地方新聞に載っているのを見て、子供にまで裏切られたと、嘘を嫌う彼は人を避け、森の中で隠居生活を送る。

2人の子供にも恵まれたのに離婚。
彼は出版もせず、ただ好きなこと、書き続けることをしていたが、奥さんと子供はかわいそうだな…と思ってしまった。
彼にとっては家族も書くことの邪魔でしかなかったのか…。

恩師でありながら、関係を絶っていたウィット・バーネット教授に、なぜ頼まれた序文をあっさり引き受けたのか…そして、序文としては使えない文章を寄稿したのか…彼は恩師への気持ちをただ本人に伝えたかったのだろうか…

サリンジャーはとても繊細な人だった。そんな彼が書いた作品は、彼自身であるというホールデンは、とても繊細な人物に描かれているに違いない。「ライ麦畑〜」を読んでみたい、と思わせられる映画でした。
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