ukigumo09

アイスバーグ!のukigumo09のレビュー・感想・評価

アイスバーグ!(2005年製作の映画)
3.7
2005年のベルギー映画。本作はアベル&ゴードンでお馴染み(!?) のベルギー出身のドミニク・アベルとフィオナ・ゴードンという道化師夫婦による監督、脚本、主演作である。本作ではアベル&ゴードン作品の常連俳優である道化師仲間のブルーノ・ロミも監督としてクレジットされている。
映画畑の人間ではない彼らは、自分たちの作品を認知してもらうために短編映画を作っていた1990年代から小さな映画祭への出品を続けていた。長編第1作の『アイスバーグ』もボゴタ映画祭、マラケシュ国際映画祭、モンテカルロコメディ映画祭、シアトル国際映画祭といった中小規模の映画祭に出品し、いくつかの映画祭で作品賞や主演女優賞(フィオナ・ゴードン)に輝き話題を集めた。そうした中でフランスの大手映画配給会社MK2の目に留まり、フランスでの劇場公開にこぎつけることになる。彼らの作品は長編第2作の『ルンバ(2008)』以降はベルギーとフランスの合作となり資金的にもパワーアップしていくのだ。

冒頭、屈託のない笑顔で現れるナティクトゥク(ルーシー・トゥルガグユク)という女性がカメラに向かってイヌイットの言葉を話している。あまりの唐突さに虚を衝かれてしまうが、終盤の彼女の活躍は守護天使というのに相応しい。
場面はフィオナ(フィオナ・ゴードン)が働くバーガーショップに変わる。悪ガキのように足で踏んだ雑巾で床掃除している彼女だが、上半身は配膳など別の仕事をテキパキこなしており、奇妙な動きや身体能力で独特のユーモアを醸し出す彼女らしいギャグで登場だ。そんな彼女がひょんなことからバーガーショップの冷凍庫に一晩閉じ込められてしまう。翌朝仕事仲間に助けられるのだが、夫ジュリアン(ドミニク・アベル)や2人子供たちは彼女を心配するどころか不在にすら気づいていない様子。一方、九死に一生を得たフィオナは、寒さや氷がトラウマになるのではなく愛情の対象となっていて、冷えきった家庭を捨て氷山(アイスバーグ)を目指すのだった。


長編第1作にはその監督の全てがつまっているとしばしば言われるが、アベル&ゴードンと『アイスバーグ』にもあてはまることと言える。ほとんど台詞に頼ることなく、サイレント映画のようなギャグで物語を運んでいくスタイルはすでに確立されており、その奇妙な身体性の可笑しさは一度観たら忘れられないほどである。
台詞とともに少ないのがカメラそのものの動きだ。固定されたカメラの中で人物たち(ほとんどフィオナ)が飛んだり跳ねたり落ちたり泳いだりと動き回るので画に躍動感はあるのだがフレーム自体はきちっと固定されている。本作では恐らく1か所だけカメラが動く場面があり、そこが目立つのも彼らの狙いなのだろう。

ヒッチコック作品の車の運転シーンなどでよく使われた画面の合成テクニックであるスクリーンプロセスを彼らも使用する。CG全盛の時代にはいささか古風な手法だが『アイスバーグ』では海のシーンなどで使われている。その後に実際に船に乗っているシーンや海で泳いでいるシーンをうまく繋いでいる『アイスバーグ』に比べて『ルンバ』や『ザ・フェアリー(2011)』での露骨で無骨なスクリーンプロセスの合成シーンは、洗練されたヘタウマ感がスタイルの域にまで達していることの表れだろう。
『アイスバーグ』でフィオナが隠れたトラックの荷台にたくさんの黒人移民がいるのは『ザ・フェアリー』での移民の再登場の、妻の不在に憔悴した夫が子供に車の運転をさせるのは『ルンバ』で子供たちにビールを飲ませることの原型だろう。
ukigumo09

ukigumo09