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マイ・ボディガード/燃える男のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

元兵士のクリーシーは、戦いの毎日に疲れ、生きる気力を無くしていたが、食べていくために、いやいやながらイタリア・ミラノでのボディガードの仕事を請け負う。彼にとっては何でも無い仕事のはずだった。しかし、ボディガードの相手は裕福な家の12歳の娘サマンサだった…。

これはシブい!
主役のスコット・グレンは言わずもがなだが、説明に多くを語らず、映像だけで魅せる草臥れた男のハードボイルドの傑作だ。
後のトニー・スコット監督作品「マイ・ボディガード」の元ネタだが、個人的にはこちらが好みだ。

冒頭、主人公クリーシーが死体袋に入れられる場面から話が始まる。
なぜ、そうなったのか?と、事の次第が語られていくミステリー仕立て。
結果的に死ぬのだから、さぞ悲しい話なのだと覚悟してしまう。

クリーシーは昔、戦場で子どもの命を救うことが出来なかったことが、少年を抱きかかえて泣き叫ぶ一瞬の映像で語られる。
それが彼のトラウマであることは明白。

ボディガードの対象が少女であることから、どうも乗り気になれない。
仕事を紹介してくれた元同僚の友人デイヴィッドに電話して、代わりのボディガードを見つけてくれるように頼む。

サマンサは、クリーシーと友達になろうとするが、彼はサマンサに冷たく当たり、ボディガードの仕事に専念しようとする。
最初こそクリーシーはサマンサを避けていたが、友達のいない孤独に自分と近いモノを感じ、徐々に打ち解ける。

サマンサ役の少女が何とも色っぽい。
少女から大人の女性へと羽化する寸前の色気があり、クリーシーとの関係は疑似親子というよりも、孤独を分かち合う歳の離れた恋人のような危うい関係性を見せる。
それをロリコンと言うなかれ、傷ついた者同士のプラトニックな心の絆である。

学校でサマンサの徒競走を見ていたクリーシーは、彼女が途中で一生懸命走るのを止めたのが気になる。
サマンサは勝ち負けには興味がないと答えるが、周囲から妬み嫉みを買うことを恐れているためだ。

死んだ少年が掴めなかった青春の喜びを与えようと、クリーシーがコーチとなる。
サマンサは徒競走本番で一位となり、クリーシーと一緒に喜びを分かち合う。
デイヴィッドから代わりが見つかったとの連絡が入るが、クリーシーは今の仕事が気に入ったので仕事を続けると答える。
彼自身も生きる喜びを得た幸福な瞬間であり、ここでクリーシーは初めて笑うのである。
そのスコット・グレンのクシャクシャの笑顔が堪らない。

ある日、クリーシーはサマンサを連れて友人の結婚式に参席する。
そこでジョー・ペシ演じるデイヴィッドがジョニー・B・グッドを歌うのだが、「Go」が止まらない。
彼もまた戦争の狂気に侵された男だと、短いシーンで分かるのが上手い。

その帰り、クリーシーとサマンサの乗って車は、マフィアに襲われ、クリーシーは銃撃され重傷を負い、サマンサは誘拐される。
結婚式の帰りに襲われたことで、クリーシーは誰か内通者がいるはずだと気づく。
サマンサの解放交渉が難航する中、傷が癒えてきたクリーシーは自分でサマンサを助け出そうと決心する。
デイヴィッドに武器を調達して貰い、サマンサの誘拐に関係した奴は総て殺すつもりだった。

後半のクリーシーが雨の降り頻るミラノで、足を引きずりながら暴れ回る姿がとても痛々しい。
決して強くはなく、被弾しながらも徐々に囚われのサマンサに近づく。
昨今の無双映画にはない、生身の男が責任を果たそうとする姿がそこにある。

ボスかと思われたダニー・アイエロ演じるマフィアが、「俺には妻と子がいるんだ」とパジャマ姿で命乞いをする。
殺さずにサマンサの所へ案内させるクリーシーは、僅かに情けをかけたように見え、人の良さが伺える。
サマンサの見張りの銃弾を受け、クリーシーは敢えなく死亡し、冒頭に戻るのかと思いきや…。
結末では、サマンサは助かり、クリーシーも無事だと分かる。
警察が騒ぎの跡を追って来たのだ。
クリーシーは実は元CIA工作員である過去が分かり、死を偽装したデイヴィッドに新しい名前と身分を与えられる。
しかし、ハッピーエンドとは思えない。
病院のテラスに佇むサマンサは、クリーシーの登場に歓喜する訳でもなく、ピクリとも動かない。
彼女もまた心に傷を負ってしまったのだ。
クリーシーがサマンサの笑顔を取り戻すため、ずっと側にいるであろうことは容易に想像できる。
生命は救った…だが、しかし…と、考えさせられる余韻のあるエンディングだ。

シンプルでありながら力強い物語。
歳の離れた中年男と少女のプラトニックな関係は「レオン」に、誘拐された少女をなりふり構わず助け出そうと修羅と化す男の戦いは「96時間」にと、様々な作品に受け継がれているに違いない。

なぜマフィアがサマンサを狙ったのか?
クリーシーの過去の戦歴とは?
そんなことはどうでもいい。

挫折した人間が、生き甲斐を見い出す。
大切なモノを命懸けで守ろうとする。
その姿が堪らなく切ない作品だ。
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