頭の上の赤い林檎

手紙は憶えているの頭の上の赤い林檎のレビュー・感想・評価

手紙は憶えている(2015年製作の映画)
4.6
 久しぶりにサスペンスで声出して驚いてしまった。驚いてしまったのだが、それと同時に涙がでてきた。辛すぎて。主人公の立場、友人マックスの心境、ここまで主人公とともに集中して物語を追ってきた分、ラストでスーパーヘヴィー級の右ストレートを一発、もろに食らった…

 製作は2015年。作中でも言及されたクリスタルナハトを筆頭とするナチスの愚行が1938年ごろから。まだ百年も経っていない。世界を見れば戦争真っ只中の国、いまだに人種差別が当たり前の国、この人種差別に関しては先進国ですらまだ続いている。
 そりゃ、ナチスの愚行を持った遺伝子が年齢的にまだ生きていてもおかしくはない世代。現代でも作中の警官のようにユダヤ人迫害主義者はまだいるのだろう。
 日本にいると、島国で、かつアジア人。どちらかといえば差別対象の人種。理解が確実に進んだ現代とはいえ、その程度の意識で日々を過ごしている人が大半なのではないだろうか。かくなる私はそうだ。だからこそ、今作のような現代でのバリバリの差別が根底にある作品を見るとそのたびにハッとさせられる。

 先ほども述べたが、今作のすべてはラストシーンに詰まっていると断言していいだろう。主人公の正体が明らかになることでそれまで道程、心情、行動すべてがそっくり180度変わってしまう。

 例えば途中、警官を殺してしまったシーン。
ついにたどり着いたナチス。だがターゲットはすでに寿命を迎えていた。

 引き返そうとする主人公。しかし、そこにいた息子は熱心なナチ信者。父の遺伝子をしっかり受け継いでしまったのだ。

 うっかりユダヤであることがその息子にばれてて息子は激昂。飼い犬に襲わせようとしたところを主人公は仕方なく銃で射撃。その後息子にも打ち込み殺害。

 このシーン、見ているときは仕方なく殺してしまった。復讐を果たすはずが、別の人を殺めてしまった主人公が復讐の愚かさに気づき始める展開かな?と、思っていた。が、違ったわけだ。

 ラストを踏まえて考えると、ここはまず、認知症を、認知症患者という設定をフルに活かし、視聴者に感情移入させ結末で主人公もろとも視聴者をどん底に突き落とす。ノーランのメメントと似たものをかんじるな。