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聖母観音大菩薩のJeffreyのレビュー・感想・評価

聖母観音大菩薩(1977年製作の映画)
2.0
「聖母観音大菩薩」

冒頭、不穏な明朝。波音と海が見える閉鎖的な島。一人の女が若挟彦神社で奉仕の日々、八百比丘、大和の女、アイヌ青年、過激派、精を吸い取る、性行為、犯す。今、不老不死の美女の物語が始まる…本作は「秘花」「天使の恍惚」に続いて若松孝二がATGで監督した作品で、大島渚監督の「愛のコリーダ」に出演していた松田暎子や若き日の浅野温子が脱いだ芝居が印象的なフィルムである。 この度DVDを購入して久々に鑑賞したが、殿山泰司、蟹江敬三、石橋連司などが共演している成人指定作品であるが、個人的には少し弱いような感じがする。若松ならもっとディープに描いてくれそうだが、ギルド作品にしては少しばかり落ち着いている。モザイクがかかってるのも萎えるんだよなぁ…せっかくの松田暎子の裸体が見れるっちゅーのに。

しかしながらこの作品は、今日の問題の一つであるアイヌ問題を描いている分、見てみるといかにフェイクニュースが流れているかなどがわかる。この作品は北陸の漁村を舞台に長者の娘が人魚の肉を食べたせいで不老不死となり、八百歳まで生きたと言う土地の伝承の"八百比丘尼伝説"をモチーフとして原発を始めてテロル、先程言ったアイヌ問題や地方の閉鎖性などを問題視した若松浩二の意欲作で、アクチュアルな日本の風土に根ざした様々な問題を浮き彫りにしている。そこに浅野温子が映画デビューしたと言う記念碑的映画でもある。

さて、物語は謎めいた一人の女が若挟彦神社で奉仕の日々を送っている。自ら八百比丘であり、罪を償うために衆生に尽くし続けているのだと言うが、村人は狂女として黙認している。彼女の上を様々な男たちが通り抜けて行く。被爆者の老人、大和の女を殺して逃亡中のアイヌ青年、爆弾を抱えて帰宅した過激派くずれ、彼らに永遠の生命を分け与えようとして交わっても皆死んでゆくのを哀れみながら、彼女一人、永遠に生き続けなければならないのである…と簡単に説明するとこんな感じで、八百才まで生きてなお乙女の面影を持つと言う不老不死の美女の物語である。福井に言い伝えられるこの伝説そのままに神社の境内で奉仕の日々を送る彼女の葛藤と周囲を描いている。

いやぁ〜、これはかなりの異色な映画である。また別の言い方をするならファンタスティック・メルヘンドラマとでも言うのだろうか、松田英子主演にメガホンを撮った若松の力作とでも言える。人間の永遠のテーマである性と死をふんだんに扱い、本当の優しさとは、思いやりとは、いたわりとはなど人々が求めて止まない課題に挑んでいる。それにしてもロケ地の美しさがたまらない。若松が自然を背景に描くファンタジードラマなんて稀であるし、貴重だと思う(笑)。このタイトルもよく付けたなと感じる。聖母のようなミステリアスな雰囲気が映画全体から漂うのは、それを演じた松田映子の熱演だろう。殿山泰司のヌードをまさか観るとは思いもしなかった。
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