ロッツォ國友

ワンダー 君は太陽のロッツォ國友のレビュー・感想・評価

ワンダー 君は太陽(2017年製作の映画)
3.1
「その人の心は未来を示す地図。
その人の顔は過去を示す地図よ。」


休日最終日の荒んだ労働者にもたいへん優しいどストレート人情ウォーミングムービー!
今やありきたりといえばそうだけど、しかし決してコピペを積み上げただけでは成し得ない温かな大人の眼差しがそこにはありましたね。
終盤ずっと涙腺が熱かったっすよ…完全に親目線でした。妻すらいないのに。



顔が「"普通"じゃない」主人公オギーは宇宙飛行士になる夢を持っており、常に宇宙ヘルメットのオモチャをかぶっている。
外界との接触を防ぐ為の宇宙服と、オギー自身が外の世界との接触を拒む為のヘルメットとは意味上の繋がりを持っており、これを被ったり外したり、あるいはバイザーを開けたり閉めたりすることで、彼が少しずつ外の世界と関わり方を変えてゆく過程を示している。
ベタといえばベタだけど、丁寧な映画表現。
良いですね。


また、主人公以外の人間の視点をキャラクター名で章分けして見せる語り口も、手法そのものはそれほど珍しくないがこういうストーリーで使うのは良いアイデアだと思った。

言ってしまえば、訳あって手術痕が沢山あるオギーこそ、本作で最も「可哀想」に描かなくてはならないキャラクターであり、大体の作品であれば、彼を攻撃する者と護る者とを描いたら大方完成したと言える。

しかし本作はそれにとどまらず、オギーの家族や友達の視点も観る者に提示している。
わざわざ章を分けて、ときに時系列を少し戻したりしてそれぞれの内面を描く事で、「主役」と「脇役」の境界線を薄くしていく工夫が為されている。


お話なのだから、主役も脇役も敵役も味方役も当然設定されている。
でも、人生では誰もが主役だ。
誰かを引き立てているだけでは成り立たないし、何も抱えていない者など居ない。

必然的に目立ってしまうオギーだけでなく、彼を取り巻く全ての人に人生があって、痛みがあって、感情があって生きているのだということを忘れさせない眼差しを観る者に持たせてくれる。


この、多角的な視点を少しずつ得ていく体験こそが本作最大の魅力ではないだろうか。
一歩立ち止まって「でもこの人も何か事情があるのかも」と考える。
それだけで、人間関係は全く違ったものになるかもしれない。



それから、作中のセリフや引用文で登場する数々の「格言」も良い感じ。
学校の先生のセリフを通して格言の意義が説明された後、思わず唸るような格言名言がポンポン入ってくる。
言われた通りにしろ、ということじゃなく、あくまで困った時にヒントをくれる存在としての格言の活かし方が良い。

オギーのような顔の人は多くはないだろう。
でもオギーや周囲の人々のような葛藤は、誰もが抱えているものかもしれない。
上述したような格言は、もちろん物語上のスパイスとして登場してはいるが、同時に観る者達への語りかけにもなっている。かもね。



あと、過剰過ぎない映画ネタもイイ感じ。
スターウォーズネタは随分ブッ込みましたな。
結構コアだし…w
決して邪魔にならず、映画上のテーマにおいては分からない人を置いてけぼりにもせず、クスリと笑わせる程よい塩梅。
「傷ついた」のシーンは吹き出しそうになっちゃったw



それからもう一点。
これは勘違いかもしれないが、オギーが罹患していたのは「トリーチャーコリンズ症候群」という病で、それがどういうものなのかの説明は少しだけあったものの、病名そのものは作品内では出ていない。

いや、俺がマバタキしてる間に出てたのかもしれないけど、これが意図的なものだとしたら、それは病名を出すことでオギーの置かれた状況を対象化して見てしまい、彼の境遇を自分に当てはめて受け入れる映画体験を阻害しない為の工夫なのではないかと思ってる。
そりゃ知ってりゃ「トリーチャーコリンズ症候群」ってことは分かるのだろうが、この病そのものに一瞬でも焦点が当たってしまうと、本作が表現しているものを大きく歪めてしまうような気がする。

その意味では、使う言葉一つ一つにこだわる様に、使わない言葉にもこだわっている。んじゃないですかね。
感動的且つ詩的なセリフの数々!ていう感じではないにせよ、やはり細部には気を遣っていると思う。
繊細な仕事をされてますねえ。



まーそんな感じで、終わり方がちょっとしつこくて大味な感じもしなくもなくもなくなくなくないが、まぁ良いんすわそういう事は。
終盤ずっとウルウルしっぱなしでしたわ。

予告見ただけで大概の内容は想像がつくし、まぁ本当にそういう感じの着地だったんだけど、しかし細部の工夫を丁寧に積み重ねている点、キャラクターにも設定にも随所に優しい眼差しが感じとれる点にはとても好感が持てるし、やっぱりストレートに心に響く。
後世まで語り継がれるうんたらかんたらではないが、たまたま観た誰かの救いになるかもしれない、そういう映画でした。


ウルウルできて良かったです。
ごっつぁんした。
ロッツォ國友

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