キヨ

RAW〜少女のめざめ〜のキヨのネタバレレビュー・内容・結末

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

チタンみた記念に、当時の長文オタク感想。

なんでこんなに衝撃的だったのだろうか?
それは、「自身の理解を超えた存在だから」という一言に尽きるのではないか。
神童と呼ばれるほど頭が良く、動物も人間と同じだと思いベジタリアンを貫く真面目な性格で、周りから浮くのも臆病者と笑われるのも嫌だと思う初心な女の子。頭はいいけど、それ以外は、多分どこにでもいるようなごく普通の女の子。
誰が監視しているわけでもないのに、ベジタリアンなのに肉を欲する自分に戸惑い怯える。一度肉を口にした日から、彼女は肉への欲望が抑えきれなくなる。
アクシデントにより、姉の指を切り落としてしまい、焦りながらも救急車を呼んだり、救急車が来るのに時間がかかるのに憤ったり、犬が切断された指を食べようとしたりするのを止めたりと、ごくごく一般的で、今までの話の流れからも、少し浮いてる真面目な子という雰囲気。にも関わらず、自身の手のひらに溜まっていく切断された指から流れる血を見、衝動を抑えきれず、その血を舐める。この瞬間、理性的な面の強い真面目な女の子だったはずの彼女が、一気に欲望に染まる。縫い合わせなければならないのに、切れた姉の指先をしゃぶり、歯を立てむしゃぶりつく。
 インフェルノなどの食人的映画は、もとまとそういう風習があるという下地があるが、彼女の場合は、そもそもが家畜の肉すら食べないベジタリアンであったのに、人間、それも身内の肉を、食べるのだ。欲望に負け、みっともないまでに、むしゃぶりつくのだ。そこいらにふつうに存在するであろう少女が、欲望に負けていくその姿が、ぞっとするほど怖かった。
 人間は、理解できないものが怖いとはよくいうが、それを身を以て感じた。理解できないことというのは、こんなにも怖いのか。彼女の変化が理解できない、なにがそんなにも彼女を食人へと駆り立てるのか、そんなにも抗えない衝動なのか。ひどいストレスを感じているという描写はずっとあるが、だがしかし、誰かを傷つける、殺すと言ったことではなく、純粋な食欲へと繋がるのか。愛するとは、食べることなのか。
本当に食人へと走る彼女が理解を超えた存在で、ひたすら衝撃的だった。


・お父さんの、「娘が2人いると大変だ」って発言には、「お母さんみたいな」ってのが隠されてんのかな。
感情的になりがちな母親と、冷静な父親って感じで、ともすれば家庭に興味が無いかともとれるんだけど、お姉ちゃんが搬送された先での病院のやりとりや、最期のシーンなんかを見ると、見守るってのが、お父さんのスタンスなのかなって感じた。
病院での主人公とのやりとりで、「人の味を知った犬は何をするかわからない」って話してたけど、何処まで察してたんだろう。「薬は万能じゃない」ってのは、獣医としての見解と、お母さんの事を含めての発言かな。「自己」は薬でどうにも変えようがないしね。
 最初見たときは、人肉に対する欲望を制御できない未熟さ=rawかなと思ったけど、お父さんの、「お姉ちゃんは自分が見つかった」って発言から、もっとシンプルに、成熟してない、自己の確立がなされていないって事での未熟さなんだなと思った。パンフのインタビューとかにも、そこんとこが書かれてたし。少女の成長譚として、いろんなものが詰まってるよね。恋愛や性、人間関係、学業、家族との関係。アカハラシーンはめちゃくちゃしんどかった。アカハラが直接しんどいというか、主人公が明らかにストレスから異食症を発症してるし、精神的にぼろぼろなのに、誰にも頼れず壊れていくのがつらい。


・冒頭で出てきたスキーのストックが、まさか同室の男の子を殺すために最期に用いられるとは……あと、冒頭の交通事故のシーンも、めちゃくちゃ重要な場面でしたね…何処に生かしてくるんだ???と思ってたけど、お姉ちゃんだったとは。死にたがりなだけなのかと思ってたけど、めちゃくちゃ生に前向きじゃないですか…
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