ユアン

RAW〜少女のめざめ〜のユアンのネタバレレビュー・内容・結末

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

『RAW 少女のめざめ』
考察!
完全ネタバレ!

一見での考察なので、検討外れな部分は、自由な解釈としてご了承ください。

冒頭、樹々が並ぶ広々とした道路が静止画のように数十秒映される。そこに人が現れ、カメラはそれを遠くから捉えている。この密度の低い構図はこの人物に不道徳的で野蛮な印象を与える。そして長い静寂を断ち切るように一台の車が交通事故を起こす。これは、文明が野蛮に侵される可能性を示唆しているように見える。

獣医学校に進学したジュスティーヌはベジタリアンであったが、学校の先輩からの新入生への洗礼で初めて動物の肉を食べる。この通過儀礼というべきシークエンスからこの映画がジュスティーヌの少女から大人への成長を描く物語である事がわかる。肉に対する衝動、それに伴う身体的精神的影響を、思春期における身体的変化、精神的葛藤のメタファーとして機能させている。肉を食べたことによるアレルギー反応での蕁麻疹で皮が剥けるショットは、脱皮を想起させる。サッカーをしているルームメイトの身体を睨みつけ人肉への欲求を示すショットが、思春期における異性への興味を表しているとしたら少し笑ってしまうシーンだ。

この映画は赤色が多く使われている。この映画で、赤は人間の統制の効かない危険な野生の側面。文明を脅かす野蛮性を表している。冒頭でジュスティーヌのキャリーケースが赤色であったことから、ジュスティーヌが秘めた獣性を持っていることを示している。学校にはジュスティーヌの姉がおり、ジュスティーヌは姉が持つ青い服を貰う。この青い服は、理性的な文明人のような印象を与える。これは、ジュスティーヌが最終的には文明的に立ち直ることを予告している。一方で、この青い服を手放した姉は最終的に取り返しのつかない状態に陥いるのである。

ラストの父の告白で、ジュスティーヌの人肉への目覚めは母親からの遺伝であることがわかるが、中盤あたりの布団に包まって泣き叫ぶショットは母親の子宮にいる胎児のイメージを受ける。これは遺伝的な要因であるというこの結末を予告していたように思う。そして父は、ジュスティーヌにこの宿命を乗り越えることを願う。

この映画は、少女が大人へと成長するときの葛藤を描き、人間誰しもが持つ野蛮な獣性、様々な環境によって湧き上がってくる不道徳な感情とどう折り合いをつけて人間らしく生きていくかが大人になるということだと伝えている。
ユアン

ユアン