薔薇

浮雲の薔薇のレビュー・感想・評価

浮雲(1955年製作の映画)
4.0
成瀬巳喜男監督。
戦時中、インドシナで出会った2人のうだつの上がらない戦後の人生を描く。

ここまで人間の人生を真の意味での”リアル”に書き綴った映画は見たことが無いかもしれない。本物の意味での恋愛映画。

この映画の主人公2人、高峰秀子演じるゆき子と森雅之演じる富岡は映画の最初から最後まで全くと言って成長しない。延々とくっつきは離れ、愛情があるのかも分からない。特に富岡に関しては、まさにふらふらとしたダメ人間でゆき子は一生彼に翻弄される。

彼らが2人で歩くシーンが何回も何回も登場する。気を抜くといつの間にか2人で歩くカットが入ってくる。話の内容に関してもほぼ同じ。ずっと幸せだった過去について話す2人の姿は現在にいないように浮遊している。

題名である『浮雲』のようにふわふわとした戦後の敗北者としての日本人の様子を凹凸を加えず描いた文学のような静かな映画。それでいてゆき子が犠牲になってこの作品は終わる。ラストシーンに挟み込まれる回想のゆき子のカットにいかにも2人の心が戦時中に残されているのが見える。

あったはずの“ロマンス”に突き放され、しがみつこうとする戦後の2人を静かに捉えた映画だった。
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