千年女優

浮雲の千年女優のレビュー・感想・評価

浮雲(1955年製作の映画)
4.0
戦時中に農林省所属のタイピストとしてインドシナに赴いた女性で、元気で出逢った農林省技師の富岡兼吾と彼が妻子持ちと知りながらも恋に堕ちた幸田ゆき子。戦後、妻と別れるとの言葉を頼りに一足先に東京に戻った彼の後を追った彼女が、口先だけの彼の言葉に幻滅して自暴自棄に陥り、数奇な人生を歩む様を描いた恋愛ドラマ映画です。

日本の「女性映画」の第一人者として知られる成瀬巳喜男が、四本の映画で原作に採用した林芙美子の恋愛小説を映画化した作品で、これまでの田中澄江から生前の林と親交のあった水木洋子へ脚本家を変更し、彼女の意見を取り入れて制作した物語でブルーリボン賞を獲得。小津安二郎から絶賛されるなどして成瀬の最高傑作と評されました。

家父長制とその庇護下の男性への悲観から男性に頼らざるをえない女性の絶望を、連鎖する裏切りの物語で表現します。演者によっては下世話なメロドラマに陥りそうなところを巨匠達の作品で数多の表情を見せて来た高峰秀子の名演で引き締めると共に、林の愛した名句「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」を際立たせている一作です。
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