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浮雲のあのレビュー・感想・評価

浮雲(1955年製作の映画)
4.4
富岡のキャラクターがいまいち捉えどころがなかったので、何故それほどまでに女を取っ替え引っ替えするのか分かりづらかったです。

一方でゆき子の描写は本当に素晴らしかったです。まず、若い盛りに突然義理の兄によって訳も分からず女にされてしまったという描写は、戦時中の浮世離れした仏印で情事に足元を掬われてしまった理由としてよく機能していました。

そして、内地に帰ってきて荒屋に住んでいてもなお、洋物の蝋燭で灯りをとって、洋服を見に纏い、西洋人の男を相手する様に、忘れ得ぬ仏印の富岡との思い出が強く滲み出ていて、あまりにも惨めに思いました。

ラスト、仏印にも似た屋久島の森の、雨が降り続く光景が、すぐそこにあるにもかかわらず壁一枚に挟まれて手が届かないでいて、それを嘲笑うかのように扉が揺れている様の哀れさがなんとも印象深かったです。

また、本作はやたらと二人の歩きがドリーショットで撮られていた印象です。先日見たハッピーアワーで、桜子と姑がお詫びに行った帰り道を歩くところもそうでしたが、そうしたシーンは、歩く人々が周りの光景から相対化されて、なんとも形容しがたい孤独さを出しているところがいいですね。本作では、二人の背景にさりげなく映る復興中の街が、未だ戦地に囚われた二人を浮き上がらせていていました。
あ