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シュガー・ラッシュ:オンラインのGKのレビュー・感想・評価

3.8
2019年初にNHKで放送された『平成ネット史(仮)』を見た。

「ああ、懐かしい」「あ、これ使ってたわ」のオンパレード。
そういう感情を抱くことはすなわち、今はそのサービスが使われなくなっているか、なくなってしまっているかだ。
時代の変化に対応しきれないものは淘汰されていく。


昨日、『シュガー・ラッシュ:オンライン』を鑑賞した。
ディズニーもまた、変化しようと方向性を模索している様子が伺える作品だった。


『シュガー・ラッシュ:オンライン』は、2012年公開『シュガー・ラッシュ』の続編だ。
前作は、アーケードゲーム「フィックス・イット・フェリックス」の悪役ラルフと、レースゲーム「シュガー・ラッシュ」の主人公ヴァネロペの出会いと友情を描いた作品だったが、
本作はその2人がインターネットの世界に行くという話だ。

詳しいストーリーはネタバレになってしまうので割愛するが、
前作の方向性が「置かれた場所で咲きなさい(たてえどんな役割であっても、自分のゲームが自分の居場所)」だったのが、
今作では「唯一生き残るのは、変化できる者である(自分のゲーム以外にも居場所はある)」という方向性になっている。


今までのディズニーだったら、基本は前者の方向性だっただろう。

主人公が自分の外の世界に興味を持ち、冒険をし、やっぱり自分の家がいいわ!と元の世界に戻って幸せに暮らす。めでたしめでたし、という世界だ。
ダチョウ倶楽部が「押すなよ、押すなよ」と言っていたら、誰かが押すぐらい当たり前のお決まりのパターンである。
前作『シュガー・ラッシュ』もまさにそのパターンで、自分のゲームが嫌になったラルフが「シュガー・ラッシュ」を通じて別の世界(考え方)を知り、元の世界に戻る、というストーリーである。

こういった「お決まり」のパターンには一定のニーズがある。

例えば韓国ドラマ。
同僚に「毎度お決まりの恋愛ドラマの何が面白いのか」を聞いたことがあるのだが、
その際の回答は「それがいい」とのことだった。

自分の期待したとおりのストーリー展開で進んでいくので、
疲れている時に安心して見ることができる。リラックスできる。

とのことだった。

なるほど。確かにそういった「来るぞ来るぞ…ほらきた〜!」というコンテンツの楽しみ方もあるのだろう。
定期的にTV放送されるジブリ作品も同様の楽しみ方だろう。
ストーリーはおおよそ把握している。だから驚きもない。
「来るぞ来るぞ…ほらきた〜!バルス!」。それが求められている。


一方で、そうではないコンテンツの楽しみ方もある。
自身の考え方や感覚と、作品から得られる情報の「ギャップ」から得られる興奮である。

「そこでこうくるか!(驚き)」「え、そんなことしちゃうの⁉(イメージとの相違)」「そういう考え方もあるのか(新情報)」

そういった自身の「相場観」と「コンテンツ」のギャップに人は刺激されれる。

『シュガー・ラッシュ:オンライン』はその方向性を打ち出そうとしていた。
前作でも様々なディズニーや他IPキャラのオールスターは驚きだったが、今作では(予告でも映像が出ていたように)ディズニープリンセスが大集合する。
また冒頭でも書いたようにオチの方向性が「変化」であり、多くの人が想定した方向性とは違うだろう。

何十年も同じメタメッセージを打ち出していたディズニーは、時代の大きな変化に対応しようと、自身も変わろうとしている。


ただ、それでいいのだろうか、ということもある。

シュガー・ラッシュに関して言えば、今作の内容は前作のオチを(ラルフの考え方を)否定するような内容だった。
シリーズで方向性が一貫していない。
また各レビューサービスの感想を見ると、賛否両論である。
否定的な意見としては、前作との方向性の違いを否定する人もいれば、ディズニー映画としてどうなのかという意見を書く人もいる。
要するに「ディズニー映画としての『シュガー・ラッシュ』に求めるものと違った」ということだ。

「(ディズニーの)お決まり」を求めており、変化は求めていない鑑賞者も一定数いるのだろう(というかマジョリティかもしれない)。


ディズニーのその姿勢が悪い方に現れたのが『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』である。

ソープオペラであるスターウォーズの否定、フォースの解釈など、物語のロジックを大きく変えようとする姿勢が見られた。
善悪二項対立、家族ドラマからの脱却したい意図が見て取れる。

その結果、旧来のスターウォーズファン、新しいファン、どちらからも評価されない中途半端な作品になってしまった。


2019年も、2月のメリー・ポピンズ、3月のダンボ、6月のアラジンと、近年大量生産しているアニメの実写モノ・リバイバルモノを中心に、ディズニーは多くの作品を公開予定だ。
それらの作品はどういう作品の方向性を打ち出していくのだろう。また観客からの反応は?
良くも悪くも映画産業、コンテンツ業界にとって影響力の大きいディズニーの今後の動向には注目したい。

また、「ディズニー映画の本質とは何か」を追求しながら、時代の変化に合わせた「夢を見させてくれる」作品を期待したい。
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