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シークレット・オブ・モンスターのJのレビュー・感想・評価

4.6
・物語★★★★★
・配役★★★
・演出★★★★★
・映像★★★★★
・音楽★★★★★

まさに“悪魔の映画”と呼ぶにふさわしい。
これほどまでに観客の不安を掻き立て煽りまくる作品が、いまだかつてあっただろうか…。

物語は5つの章により構成される。
オープニングの“序曲”から“第1〜第3の癇癪”を経て、最終章は“新しい時代”…。

その全篇にわたり繰り広げられる不穏で禍々しい音楽のオンパレードは、観客を戦慄せしめるのみでは飽き足らず、ときに“不協和音”という凶器を用いて、聴覚を暴力的に蹂躙し尽くす。

この地獄のような体験を味わいたければ、本作は是非とも劇場で鑑賞するがいい。

効果的に陰影を配し中世の絵画のようにも見える映像は、極めて甘美だ。
しかしそれはあたかも、美しい擬態を用いて近づくものを捕食する悪魔の毒牙のようでもある。

その悪魔の姿は、エンドロール直前、スクリーン右下に姿を現す。
観客の不安をむさぼり満足気なその表情は、単なる作為的な演出と言うにはあまりに不快極まりない。
(……あれは劇中の童話に登場するライオン🦁か、それとも本当に悪魔👿か…?
いずれにしても、本作のすべてを象徴する何かであることは間違いないだろう。)

原題は「The Childhood of a Leader」。
ヒトラーあるいはムッソリーニの少年時代を描いた伝記のようではあるが、実はパリ講和会議やヴェルサイユ条約といった時代背景を踏まえた架空の物語だ。

物語の展開、特にキャッチコピーでもある「怪物=“独裁者”生誕の謎」に対する解釈は様々だろう。
しかしひとつ確かなのは、本作が親と子の関係性をテーマとして描いた作品であるということ。
子を持つ親であれば、その躾や接し方について、悩みや不安を抱かない者はいないはずだ。
その心情すら嘲笑うかのように、本作は容赦ないラストシーンを用意する。


(※以下、ラストシーンについての言及アリ)

“あの一人二役”によって極めて残酷かつ残忍な解釈を想起させる本作は、まぎれもない“衝撃作”であり“問題作”であると言わざるを得ない。

難解で賛否分かれる作品かも知れない。
だがこれはこれで、ある意味において他に類を見ない極めて貴重な映画だと強く思う。


劇場用パンフ★★★★★
全26ページ。
すべての謎や伏線がクリアになるわけではないが、ヒントや一定の解釈がふんだんに盛り込まれた監督インタビューは必読だ。
「物語を先取りする音楽」のレビューも、まさに的確。
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