名も無き辛口評論家

マンハントの名も無き辛口評論家のレビュー・感想・評価

マンハント(2018年製作の映画)
5.0
「追捕=Man Hunt」

北のミサイルマンこと正恩(ジョンウン)ではなく、呉宇森(ジョン・ウー)監督の最新作の追捕=Man Huntを観た。

感想として、(「悔しかった」)。日本大好きで至上主義な自分には、客観的に、ここまで魅力的に日本と日本人を中国人が描けるのか、と感嘆の思いに至った。
今のティーンエイジャーとアラサーオバサン向け恋愛要素とホラー作品と萌えアニメ一辺倒では絶対に敵わない。対象者が中身のない脳みそスカスカ向けのゴミ以下の白痴邦画では不可能。本作はアクションと物語が訴えかけてくる中身がある今時珍しい作品だった。少なくとも、アクションとストーリー双方両立は難しいが、器用に並存している。
この作品を観て即座に感じた。もはや向こう百年は、中国映画に勝てないと感じさせる出来前だった。おそらく、今の邦画では、確実に50年経っても双肩さえ無理。

日本映画サイトレビューでは高くないが、内容は抜群に面白かった。
むしろ、支那・China・中国などと色眼鏡は捨てた方がいい。呉宇森監督は香港人で日本映画の造詣も深い。内容を観れば分かるが、昔の日本映画と視聴率が今でも高い刑事ドラマを観ているようで、元気があって中身のある作品が多かった日本作品のリメイクに思える。作中でも「オールド映画」と指している。途中に流れるジャズ音楽や効果音は、日本の刑事ドラマや昔の映画で、日本に対する敬意が隅々まで感じる。
福山雅治氏と呉宇森監督の対談で、監督が「日本映画を観て育った」は伊達ではないことを感じさせられるほど随所に描かれている。
こうした日本「通」は、過去の日米戦争を描いたウィンドトーカーズにもあり、日本の子供を米兵が救うシーンがあり、誘拐された少年を矢村刑事を演じる福山雅治氏が救出するシーン。日本人なら絶対に子供の犠牲者を出さない演出。その助けた子供が泣きながらお巡りさんになりたいという憧れの情景シーンなどは、日本で畏敬の念を持たれる警察官を見事に描ききっている。果たして、今の堕落した日本の脳みそスカスカ左巻きの監督(笑)に描けるのか?絶対に不可能だろう。

同時に、政治色は出ており、天神製薬は、旧731部隊批判。また、天神は、誰がどうみても皇室を指す。しかし、こうした批判は、中国国内で行われるチベットや新疆ウイグルで行われる非道や蛮行と人体実験と合せ鏡だろう。ただ、そうして邪推を差し引いても、キャラの個性が際立っており、無駄な登場人物が皆無で「人間の魅力」を伝える良作だった。

申し分ない名作だが、関西人もとい大阪人として言わして欲しい。地理の関係上無理がある。近鉄の上本町から、謎のトンネルに繋がっていたのは、設定として面白かった。だが、広大な中国の感覚かもしれないが、ドウ・チゥ=張涵予(チャンハンユー)が福山雅治演じる矢村刑事と大阪城近辺の京橋口で水上バトルを演じて、大阪城の入口から逃亡して次の瞬間には、大阪駅にいて、そこから新幹線で逃亡する。その間、福山演じる矢村刑事が大阪城近辺を捜査するシーンは、とんだ道化である。
確かに、広い広い(広大な)中国からすれば大阪城と大阪駅と新幹線が止まる新大阪は、北京と万里の長城よりも遥かに近いと思うだろう。しかし、現実に大阪城から大阪駅までは、4・5キロも離れており、地下鉄は包囲されているだろうから徒歩計算だと54分かかる。タクシーでは16分だが逃亡者が易々と乗れるとは想定し難い。さらに、新幹線が止まる新大阪まで3・8キロでJRだと一本だが、逃亡者が、そう易々とは乗れないだろうし現に大阪駅には警官が張り込んでいた。また徒歩で47分の距離を移動して、長野の軽井沢辺りにでも見事逃亡した。大阪府警はその後追跡に成功した矢村刑事以外無能のレッテルを貼られても仕方がない。
この展開だけは、水を差してしまうが、関西人ないし大阪人としてツッコミたかった。

あと、あいりん地区を、これだけ綺麗に描いた海外映画は、まず他にないだろう。むしろ、呉宇森監督が日本の情報に精通している証左。また、そのホームレスとの後の展開も泣かせる悲しい話で昔の日本作品を、よく観ているんだと感じる。

悔しいし、大切なことなので二度言う。絶対に邦画は、向こう百年中国映画に勝てないということを理解させるくらい味のある映画。