ルサチマ

中央地帯のルサチマのレビュー・感想・評価

中央地帯(1971年製作の映画)
5.0
大学で見た。70年代以降生まれた最も過激な映画の一つ。多方面の分野でアーティストとして活動するスノウが、66年の映画『波長』や67年の写真『大西洋』でカメラのフレーミングの中にメタルの深みのある陰影とともに水の生み出す襞や曖昧さ、透明さと黒味を映し出したものが、69年の映画『←→』、そして71年の今作でそれまでの表現活動を引き継ぎつつ、拡張させる方法として自在に動き回るカメラワークで山岳地帯の砂、岩、撮影機の影、地平線、そして空へと落ち着きを払いつつもスピーディーな動きで被写体を捉えつつ地上から離れたり、近づいたりする。およそ3時間にわたる今作は同じ山岳地帯をぐるぐると回りながら映し出すため、次第に光の入りが変わったり、フレアが生じるといったこともお構いなしなのだが、それによって光と運動が組み合わさったりして物質そのものが解体されていく。最早鑑賞者の眼差したい欲求に沿うことはなく、ひたすら動き続けるカメラが撮影者の存在を徹底的に希薄化させ、カメラそのものが地球の動きのような力として感じられるのだが、その結果としてカメラはロケ地の山岳地帯に留まりつつも、異界へと誘うかのような光線が時折挿入され、見るものは自分がいる場所の不確かさについて身体的に意識を巡らせることになる。映画体験は視覚と聴覚の体験のみならず、スクリーンを見続けることによる身体的疲労を兼ね備えることをここまで意識する体験は普段の劇映画を見ていても味わえるものではない。

ゴダールとストローブ=ユイレ亡き後、個人的な現代映画の最重要人物はスノウ、ネストラー、ルソーの3人なので彼らの映画が広く観られることが急務。
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