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BLAME!(ブラム)のYuuitsurouMineのレビュー・感想・評価

BLAME!(ブラム)(2017年製作の映画)
4.0
 この映画に登場する人物たちの名前を呟いてみよう。霧亥(キリイ)、シボ、づる、捨造、タエ、フサタ、アツジ。なんと「奇体にも懐しい名前」(大岡信『地名論』)なんだろう。この命名のセンス、懐しくありながら耳慣れぬ、時間の流れのどこかに位置しているとハッキリ分っているにもかかわらず、今誕生したように奇異な造形のセンス、これこそが弐瓶勉の「BLAME!」を圧倒的な作品として屹立させているものなのだ。それを一言で表すなら、もうただただカッコイイのである。そのカッコイイコミック「BLAME!」をフルCGで映画化した瀬下寛之監督の「BLAME!」は、あの「BLAME!」が動いている、と思わせてくれる、徹頭徹尾カッコイイ映画だった。弐瓶勉の描くアクションは荒々しいまでにノイジーだが、それを瀬下監督は組み立て直し、動かし、宇宙の軸を轟かせる破壊のカタストロフにしてくれている。
 その轟く破壊の中に、茫然と、茫洋と、寡黙に、孤独に身構える霧亥は無茶苦茶カッコイイ。胸の奥から漏れ出て口にしてしまうほどカッコイイ。霧亥が探しているのは、「感染」前に誰もが備えていた「ネット端末遺伝子」を持つ人間である。人類はそれによって「ネットスフィア」に接続し、都市をコントロールしていた。が、「感染」後、人間は接続を失ない、そのコントロールから放たれた都市は自己増殖し、途方もなく巨大な階層都市へと変貌してしまう。垂直と水平の果ての果てまで広がった都市は、皮肉にも人間を不法な侵入者として「セーフガード」によって駆除し、排除しようとする。主の座を追われ、文明を失なった人間は、ドブネズミのような異物扱いなのだ。だが、廃墟と構造物のアマルガムである超巨大階層都市こそ異物そのものである。その異形の風景には、内部もなく、外部もない。延々と続き、重層している。下方遥かに闇に没する。頭上彼方も闇に溶け、水平の果ても闇に沈んでいる。アリス症候群の眩暈を引き起こす迷宮だ。映画はこれを痺れるほど丁寧に描いてくれている。この迷宮の荒野を旅する霧亥は「重力子放射線射出装置」という究極の武器を携えたガンマンだ。つまりマカロニウェスタンでクリント・イーストウッドが演っていたようなガンマンなのだ。カッコ良くないわけがない。それに「重力子放射線射出装置」とその発射の描写は美しく、文句なしである。
 マカロニウェスタンのガンマンなどというまたしても懐しいイメージを喚起しながらも、そこに新鮮な造形が対置されている。それがシボとサナカンという美少女キャラクターだ。シボは骸骨まがいの腐れたトルソーとして現われ、その意識を新しい体にダウンロードして、でっかい女の子になる。その人形的な奇怪な造形がぞくぞくさせてくれる。特に爪先は堪らない。サナカンの方はシヴァ神として殺戮の限りを尽す。恐しい。
 さて、このカッコイイ映画を試写会で観ることができたのだが、上映後の試写会場に湧き広がった拍手のことも記しておこう。その拍手の意味は、よくやった、素晴しい、いいぞ、など様々にあるのだろう。私にとってそれは、「ありがとう」である。
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