紅蓮亭血飛沫

ティーン・ウルフの紅蓮亭血飛沫のネタバレレビュー・内容・結末

ティーン・ウルフ(1985年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

バスケットボール部部員にして平凡な男子高校生・スコットはある日、聴覚が研ぎ澄まされたり己が内に何かが眠っているような感覚に襲われる。
更に胸毛が生えたり爪が伸びたり、挙句の果てに自分の身体は狼男に変身していた!
その姿を見たスコットの父親は、狼男になったスコットに驚くわけでもなく、実は自分の家系は狼男になる体質にある…という事実を知らされる。もうこの能力と付き合って行くしかないと嫌々ながら納得するスコットは、やがてバスケの試合中に感情の昂りから狼男に変身。
人々から忌避の目で見られると思いきや、狼男になった事で格段にパワーアップした運動能力を駆使し、逆転勝利してみせた事でスコットは校内で人気者に。
たちまちモテ男となったスコットだったが…。

バック・トゥ・ザ・フューチャーにて主演を務めたマイケル・J・フォックスの隠れた主演作である本作、80年代映画というジャンルのノウハウを押さえたかのような出来映えで楽しかったです。
スコットが己の体とあれこれ苦戦するコメディ映画かと思いきや、早々にスコットはこの体質を利用してあれこれと遊び呆け、調子に乗りまくっちゃう…というのもティーンエイジャーならではの思い切りの良さ、エネルギッシュな一面が体現されていて掴みはバッチリ。
80年代映画というのもありますが、本作が描くテーマ・話運びは単純明快なものとして落ち着いているため、良くも悪くも予定調和、ベッタベタです。
ですが、この手の映画はこれぐらいベッタベタな王道路線がマッチするんですよね。

敢えて言うなれば本作が描くものが、青春スポーツなのか、己の価値感と向き合う映画なのか、どっちつかずな印象を覚えてしまう程にどちらのテーマもイマイチ掘り下げられていない事でしょうか。
終盤のバスケットボール試合の話運びはとても面白く、見ていてこちらも身を乗り出してしまう程に感情移入してしまいました。
皆から注目される事のなかった自分が狼男になった途端人気者になり、人々が求めている狼男の自分と、本来の自分の間にある存在の格差、己のアイデンティティについて思い悩む展開も好み。
どちらのテーマも魅力的に描けていた反面、欲張ってどちらも取り入れようとした結果、どちらも若干掘り下げ不足と感じる程に、調理不足な出来映えになっている事が残念です。

例えばバスケットボール試合なのですが、試合運びや選手一人一人の活躍が目ざましく映画映えする一方、強敵チーム相手に逆転する光景が現実離れし過ぎではないか、というのがまず一つ。
“人間の自分”と“狼男の自分”では大衆から向けられる視線・羨望が雲泥の差であり、そこから生じる己の存在意義について…というテーマも10代高校生に打ってつけのテーマ提示として面白かったのですが、狼男である事で起こり得る苦難、不便さが描けていないため、“狼男のままじゃダメだ”とスコットが決別するカタルシスが乏しく、最終的にバスケットボール試合に姿を現す彼の心境も汲み取り辛い。
本作はリアリティ重視の映画ではないから、とこれらの点を流し見する事も出来ますが、若干勢い任せ、なあなあで済ませている箇所は否めません。

良くも悪くも80年代映画としての肉付けが顕著であるため、精巧性を求める方には不向きな箇所が見受けられますが、自分の価値観に思い悩みやすい10代・思春期という設定を基に、狼男になるという他者とは違う一線を持つ主人公は興味を惹かれましたし、クライマックスでの白熱のバスケットボール試合は一見の価値大いにありです。