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一晩中のemuのレビュー・感想・評価

一晩中(1982年製作の映画)
4.3
たくさんの人々の出会い、別れ、或いは逃避、自問。それぞれに物語があって、決して多くは語らないけれどでも確かにそこに存在する人々の濃密な時間がそこにあった。人が夜に消えていく、夜の闇から浮かび上がってくるその一瞬の美しさ。真っ暗な夜のハイライト、蒸し暑さと登場人物たちの装いが艶めいていて。なかの人達はみな、夜という空間のなかで何かをずっと待っているみたいだった。しばらく忘れられないな。上映後のトークショーもとても良かったのでメモに残します。






以下、トークショー内容一部抜粋
忘れないようにメモしたもの
もしかしたら地名とか細かい部分を聞き間違えているかも、、参考までに。
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「一晩中」そしてこの後に制作される「ゴールデン・エイティーズ」はアケルマンのキャリアのなかでも重要な立ち位置になった作品。

スクリーンの中で真っ暗な夜が描かれるという当時の映画業界ではなかった演出だった(真っ暗な映像では誰が何をしているのかわからない。登場人物などの影が見えないというのは、ハリウッド映画では映画そのものの欠点になってしまう)
人工的な照明は一切使われていない。
同じ手法を取り入れた映画として有名なのがキューブリックの「バリー・リンドン」。照明は使わず、蝋燭の光のみを使って当時の室内の暗さがどのようなものだったのかを再現している。
映画が進むにつれて、これらは向こう側の部屋に住む人々の、一つ一つの部屋のなかで起こっている出来事なのだとわかる。→ヒッチコックの「裏窓」みたい!
アケルマンはヒッチコック作品も好きだったとのこと。

今作では80人近い人々が出演している
いろいろな場所で撮影されているように見えるが、実際のロケーションはなんと3か所のみ!
①ミニーム通り
②高級ブティックの並ぶ大広場
③ファンケルタル?地区

後半の角部屋のショットはスタッフの住んでいたアパートをそのまま使っている。同じアパートのなかに見えないのは、構図やカメラ位置、家具など角度を変えて撮影しているから。

Rose cafeのシーンはエドワード・ホッパーのような色彩と構図!小さなフレームの中にものすごく計算されている。

映画のなかで1人佇んで煙草を吸っている女性はアケルマンの母ナタリアが演じている。(私はエンドロールでナタリアが出演していたことに気がついたが、どのシーンの誰だったのかはわからないままだったので、知れて良かった!)
「ママ、ママ」と呼びかけているのはアケルマン本人の声。ナタリアは呼びかけに気づいていない、或いは気づいているが無視している。というところに志賀さんはものすごく心掴まれたとのこと。その前のシーンには、少女が1人、猫を抱えて家から出ていくという場面があった。

一晩中でも、男女がダンスをしているシーンがある。最後、夜から朝になり、音楽に合わせてダンスする男女。女性の方はダンスの相手ではなく、ここにはいない他の誰かを思いながらダンスをしている。

ハリウッド映画などでお馴染みの、主人公がいて、ストーリーがあって、という流れとは違っている。
数えきれない日常のパターンがあり、数々の身体の動きがあるということ。
最初のオープニングカットで、列車から降りてゆく人々が別々の方角へ移動していくシーンがあるが、まさにこの映画自体を示唆しているようで好き。みんながトランジット状態になっているという点もアケルマン作品が魅力的なところだと思う。
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