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海の旅人たちのすえのレビュー・感想・評価

海の旅人たち(1953年製作の映画)
3.0
記録

【誰もが知っていて誰も知らない男、スタンリー・キューブリック】

内容はドキュメンタリーということもありつまらない、しかしこの時点でショットへの嗅覚の鋭さは確かに表れている。キューブリックの初のカラー作品。
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1953年にキューブリックは、船員国際組合(SIU)から産業映画の制作を受けた。そうしてウィル・チェイサンが脚本、労働組合の広報誌のスタッフがスーパーバイザー、キューブリックが1人で撮影と監督をこなし、ニューヨークのレスター・クーパー・プロダクションによって制作されたのがこの30分の『海の旅人たち』である。

今作以前の短編2作品以上に、キューブリックらしさが散見される。組合本部内での機械のモンタージュによる機械と人間の関係性は、『2001年~』で扱うテーマとも共通している。
また、長~いドリーショットでカフェテリアを横切るところ、思わず笑みを浮かべてしまった。人物とともに食物を映すショットもなかなか良い。
今作でキューブリックが初めてヌードを撮影したことも重要。女性という性的対象と、海の男を映すことでその関係性を提示しているだけには留まらず、彼の人間性愛に関する興味の表れでもあると言える。これらのように、後の作品に通ずるものが伺える。

雇われ仕事とはいえ、やはり自分自身で作り上げた独自のスタイルを感じさせられる。色彩は温かみがあり、豊かな画に仕上がっている(Youtubeのリマスター版を鑑賞)。照明に至るまでアレンジを加え、『ルック』誌に通づるものも感じられる。

ラストシークェンスでも、モンタージュで映像に語らせ、映画のビジョンを示すという、映像の力を使う才能が開花し始めているのが分かる。聴くものと語るもの、その対比をはっきりと描き、またドキュメンタリーとして結末にリアリズムを持ち込んでいる。『突撃』のラストシーン、聴くものと唄うものの描写、その描写は相互作用の骨格が潜在的にキューブリックに埋め込まれていたからこそ生まれたのかもしれない。

2024,短編7本目 2/9 Youtube
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