キンキン

花に嵐のキンキンのレビュー・感想・評価

花に嵐(2015年製作の映画)
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 映画研究部に入った主人公がそこで借りたカメラで日々を撮影していくうちに、不思議な女の子「花」に出会い、彼女に頼まれて彼女が出演した自主映画の続きを撮って欲しいと頼まれては嵐のような数日を体験しそれを記録した、フェイクドキュメンタリー作品。

 全編、POV形式の撮影を取り入れていることもあって、ドキュメンタリーのように作られた各作品のオマージュが見て取れる。画面の揺れは好き嫌いあると思うけど、それを計算して飽きさせない展開が見事。一人称視点の映画って、だんだん自分がそこにいるような気持ちになるんですよね。疑似体験というか。主人公は岩切監督自身が演じているのですが、童貞気質ムンムンでボンクラな自分は被りました。

 映画研究部に入る時、小池ありささん演じるありさ先輩が可愛いですね。「これか!?これが!早稲田なのか!!」と心の中でツッコミながらも、豹変するありさ先輩を見ていると、「これって、監督がこういう美人になじられたいという性癖なのでは?」と感じたのです。だってこの映画って、ホント、監督の理想だったり願望だったりがものすごく出ている。ラストの拍手しかり、女の子を撮りたい、映画に祝福されたい、というね。いわばナルシスト的なのも見えてくるわけで、ちょっとそこらへんに戦慄を覚えました。
 本作はフェイクドキュメンタリーだからいいけど、実際にストーカーをしてしまいそうな欲望も見え隠れしている。人間らしいっちゃ人間らしいんだけど、怖すぎるほど純粋。内田けんじ監督が「映画監督か犯罪者になる」と岩切監督に言葉を残したのもなんだか分かる気がしました。

 特に理想的・願望的な部分をあげるなら、里々花さん演じる花が繰り返し言う「やり方がわかるからやるんじゃないでしょ?やりたいからやるんでしょ」のセリフに現れています。
 この映画では女の子たちが強くて、出てくる男がみんなヘタレ。結局男って、女の人が何かアクションを起こさないと動き出さないんだなーっていうのが虚しいのですが、あのセリフって怖気づいたり受け身な人には、ハッと気づかされるんですよ。それを、花がまっすぐこっちを見て言うわけですから。でも、実際こういう事を言われずに自分が気付くまでは、いつまでもくすぶっているっていうのがほとんどの人だと思います。私も。
 だから、監督自身がこう言われたい、こうしたい、っていう自身に向けて作ったように思いました。

 個人的には、車で逃げ出すシーンに心奪われた。映画で言うなら「トゥルー・ロマンス」でしょうか。もう、憧れですよ!あんなシーン!!
 上でも書きましたが、疑似体験、の沸点がここで爆発しそうになりました。というのも、次第に花に恋してるんですよね。ああゆう影がある子がどストライクなものですから。車が出てきた時はもう、頭の中「キャーーー!!」って。
 まあ、この後に「ギャーーー!!」ってなるわけですけど…死にたくなりました。勝手に傷ついているわけなんですけど、久々です。こうも我を忘れるような映画。鑑賞後にはもう、なにもかも投げやりな気分になってましたね。落ち着くのに随分と時間がかかりました。
 しかし、際どい撮り方するよなー、鼻血でそう。

 映画が進むにつれ、ご都合主義な部分が増えてくるんですけど、その時はもうどうでもよくなっています。この後の二人がどうなるかって部分の期待が高まっているから。クライマックスが近づく事で、がらっと撮影が変わってジャンルレスになるのですが、そこで思い出したのが平野勝之監督の「わくわく不倫講座」。
 このAVは途中から、監督が我を忘れたかのように女優の幻影を追いかけるわけで、これって結末が宙に浮いたまま取り残された存在がとても痛々しく物語が破綻していきます。続きを作れなくなったので、空を切るように近づこうとする姿が残酷なまでに切実で、ある事をして結末をつけるんですが、それが海辺で「花に嵐」もそうなんですよ。
 「花に嵐」は逆に、女優が監督に空白を埋めてもらおうとして、海辺へ向かっていく。ラストは一体どうするんだろうって思っていたのですが、あれにはもうお手上げです。もう輝いて輝いて…思い出すと涙が出てきそう。

 青春っていいなー。死にたくなったけど、充実した作品でした。

 俺も、女の子撮りたい…。
キンキン

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