タナカリオ

ドリームのタナカリオのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
4.3
『ハンデ』が『前例』になる瞬間、観ている全ての者に勇気を与えてくれる最高のエンタテイメント映画。

天才が大きな黒板に一息もつかず数式を書き込んでいくシーンが好きだ。軽快なチョークの音、書かれていく数式の列。書かれている内容は全くわからないが、それが何か大事なことを示しているのはわかる。NASAで働く計算係のキャサリンが示すその数式は、アメリカ初の宇宙有人飛行へと繋がっていく。

キャサリンを含め主人公3人にはそれぞれ大きなハンデが2つある。それは『黒人』であること、『女性』であること。

そして大きなライバル、『ロシア』と『IBM』。月面計画という夢のある計画だが、実際はロシアとの代理戦争のようなもの。人類初の有人飛行をガガーリン飛行士によって先を越されたアメリカは、ケネディ大統領のもと、何としても先に月面着陸を果たそうとする。

そしてアポロ計画が今のiPhoneよりも低能力のコンピュータを使っていたのは有名な話。そのため人の力が何より必要になる。キャサリンの天才的な計算能力も、欠かせないものだったが、そこに一瞬で莫大な計算を行うコンピュータ、”IBM”が現れる。計算係のキャサリンにとっては、自分の存在価値を脅かす存在だ。

そしてロシアやIBMよりも自らの前に立ち憚る存在、『NASA』。
キャサリンとトイレの距離に対して、アメリカと宇宙の距離も近くなるのが脚本の面白い演出である。

これらに打ち勝ち、ハンデが前例になる瞬間と、アメリカ初の地球周回軌道を飛行したジョン・グレンが地球に帰還する瞬間が重なった時、この作品最大の感動を巻き起こすと同時に、観ている者に勇気を与える。

アポロ計画と言えば、永遠に代表作となるであろう『アポロ13』があるが、ラスト、アポロ13のシーンを思い起こさせるシーンは必見である。


それにしても、ジョン・グレンはライトスタッフでもこの作品でも最高にかっこよく描かれていて素晴らしい。
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