蛇々舞

レッド・スパローの蛇々舞のレビュー・感想・評価

レッド・スパロー(2017年製作の映画)
4.0
超ハード。
よくある超人的なスパイアクションは皆無。

生々しい格闘と、きわめて痛々しい拷問描写が頻出。
エロは、あるがタマヒュンで相殺。

精神がゴリゴリ削られる。
それを念頭に置いて鑑賞されたい。


さて、それを乗り越えれば、なかなか良く練られた映画である。
人間の精神性、ジェンダーの問題に鋭く切り込みながら、きちんとエンターテイメント性も確保されている。

主人公は、あのクラリス・スターリングの系譜に連なるキャラクターであろう。
そうして観ると、なるほど、ジェニファー・ローレンスの表情などはジョディ・フォスターを彷彿とさせる。

もちろん、多分に意識されてのことだろう(ヒロインがレイプされることを含めて)。
その上で、この映画は女性キャラクターの主体性を、現代的にアップデートしようと試みているように思う。

思うに、「羊たちの沈黙」は女性=クラリスの主体性を、男たちがよってたかって奪う話であった。
それは〝視線〟に象徴され、彼女はハンニバルを代表する登場人物らに、終始、〝視姦〟され続ける。
そして最後には暗闇の中で自身の〝視界〟を完全に喪失してしまうのだ。

今作においても、人々はヒロインに主体性の放棄を迫る。
自意識、プライドを全て捨て去り、国家に仕える〝兵器〟つまりは〝道具・物〟となることを強いるのである。

シャーロット・ランプリング演じる監督官が、彼女を教育する場面などは、「フルメタル・ジャケット」のハートマン軍曹を思わせる。

あの映画もまた、若者らが個性と情緒を奪われ、兵士=戦力として戦場に投入される物語だ。
そこでは故郷、肉親への愛は否定され、それに固執する者は惨めに死ぬ、という現実が示される。

「羊たちの沈黙」「フルメタル・ジャケット」

それらの作品では、いわば主人公らは敗北するのだ。
主体性を損ない、平和な日常、愛に溢れた精神を放棄する羽目になる。


そこへきて、映画「レッド・スパロー」は、ひとりの平凡な女性が、そんな理不尽に真っ向から立ち向かい、ついに勝利を収める物語なのである。

女性としての一人格を否定する組織、そんな運命を強いた人物に、己の身一つと頭脳を駆使して一矢報いる。

これほど痛快なものがあろうか?

ヒロインは最後まで屈さず、自分を捨てず、ただ静かに戦い続ける。
そんなジェニファー・ローレンスが、とにかくカッコよく、美しいのだ。

新しいヒロイン像を開拓した意味で、素晴らしい作品である。
一見の価値はあり、だ。

ただ、長い。
そして緊迫感が尋常じゃないので、とにかく疲れる。
そのことは留意された方がよいかと思う。

──最後に。

トム・クルーズの「ワルキューレ」でも思ったけど、登場人物ら全員が英語を喋っていることには、最後まで違和感がありました(笑)
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