jinhee

密偵のjinheeのレビュー・感想・評価

密偵(2016年製作の映画)
3.5
タイトルの通り、密偵の話。
朝鮮半島が日本の統治下にあった時代。朝鮮人でありながら日本警察に所属するジョンチョルが、武装独立運動団体・義烈団の監視役を命じられ、同胞を追い詰めなければならない立場と民族意識の間で揺れる姿を迫力映像で描く。

冒頭の警察が乗り込むシーンも後半の列車のシーンの緊張感も、現実味は別として緊張感と迫力がある。セットも衣装も素晴らしい。大画面での見応えがあった。上海の街並みも魅力的で、食堂車両も素敵だし、爆破シーンは官能的でさえあった。

そしてソン・ガンホにコン・ユとイ・ビョンホンという出演陣の豪華さ。
ソン・ガンホはもう言うまでもない。安定の名優。本当にどんな役柄も得意な役者だ。
コン・ユは逆に、誠実さや正義感がとても似合うので、義烈団という団体のイメージを彼一人でスマートに表現した。(ただ、彼のような長身のイケメンは隠密行動には向かないと思う)
そしてイ・ビョンホン。個人的に好みのタイプではないのだが、スクリーン上のこの俳優は、見る度に天井知らずの男前で驚かされる。団長の登場シーンは呆気ないほど短いが、流石の存在感で、こんなカリスマ団長がいたら命賭けて革命起こしてみたくなっちゃうよね、と思わせる説得力があった。酒を注ぐだけで、いや、登場しただけでとにかくカッコイイ。チート過ぎやしないか。
鶴見辰吾はビジュアル的に素晴らしく当時の日本の偉い人、だったのだけれど、惜しいのはちょっと大人しかった事。そこが実に日本人ぽさでもあるのだけど、ソン・ガンホとイ・ビョンホンの濃さに負けている。この役にも義烈団団長に匹敵するカリスマ感が欲しかった。ジョンチョルが惹きつけられるような魅力、でなくても良い、絶対に抗えないような権力の権化みたいな存在にして欲しかった。

物語としては正直そこまで特筆するものは無かったのだが、
どちらの歴史に名を刻むのかという葛藤の中で、法廷でのジョンチョルの「悔しい」という言葉は、重く、辛かった。
jinhee

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