あるてーきゅう至上主義者

アシュラのあるてーきゅう至上主義者のレビュー・感想・評価

アシュラ(2016年製作の映画)
3.7
外道(市長)VS非道(検察)の争いを、犬(主人公)の視点でまとめあげた血みどろオペラ。権力と支配のためには手段を選ばない市長役のファン・ジョンミョンが凄い。

とにかく主人公のキャラクターが、まさに犬。生き残るためには手段を選ばないけれど、同時に逆らいようがない圧倒的な権力に踏み潰されている。と同時に、自分より弱いと判断した相手には、一切情け容赦なく高圧的な態度で接する。清清しいまでのクズである。ときどき「手段のためには目的を選ばない」思考回路にはまり、簡単に逆上することも。しかし、その結果として起きるカーチェイスシーンは圧倒的。

そしてファン・ジョンミョンがとにかく凄い。面の皮が厚いとか、鉄面皮といった言葉の素晴らしい見本を見せている。大袈裟な演説シーンが、人を平気で殺すシーンの直後にくるなど、変身ぶりが見事。そしてそんな人間の部下として行動せざるをえない、主人公の絶望を端的に表した、グラスを噛み砕くシーンの痛さが強烈だ。

しかし、そんな主人公でもどうしても嫌いになれないのは、病気の妻への必死の献身ぶりと、ラスト15分の犬としての矜持と意地がとらせた行動だ。権力の犬にはなってしまったが、それでも微かに残された誇りをかけ、最後まで足掻き続ける。その姿に、ひたすら心を打たれた。