おくむらひ

君の名前で僕を呼んでのおくむらひのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.8
1983年はキリスト教民主党からイタリア社会党へ国政の主導権が渡った年。キリスト教の規範が少し遠のき、同性愛者にとって多少は楽観的でいられた時間かもしれない。それに呼応するように、カットインモーションで切り取られた豊かで心躍るイタリアの夏。そのうちの6週間を動作の省略、時間の省略、移動の省略で爽やかに駆け抜ける。代わりに長回しでゆっくり観せるのは、エリオとオリヴァーの関係が変化した瞬間。バッハの変奏を披露する瞬間、ピアーヴェ川の戦いなど。互いが互いを慎重に確認しながら近づき離れ、寄り道をしながらまた近づき、やっと実る。しかし、官能的で多幸感溢れるひと時も束の間、オリヴァーが去る日がやってくる。オリヴァーの発つ駅まで付き添うエリオ。他人の目があるからかあっさりと別れる。こんなシーンでも演出はエモーショナルにならず、あくまでも日常を切り取ることに徹する。方法は変わらないのに、それまでの爽やかに駆け抜けるような撮影と編集がそのまま今度は、6週間という時間の短さを冷酷に突き付ける。理解のありすぎる父に慰められ、夏は終わり冬になる。電話の後、暖炉を向くエリオの顔のアップでエンドロールに突入する。長回しが観せるのは、エリオとオリヴァーの関係が変化した瞬間。
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